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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「えっ、何も聞いてないんですか?」“敗者ネリの異変”を密着記者は見た…井上尚弥への恐怖心「ネリ、もう立ち上がるな…」思い出した3人の娘
posted2024/05/09 17:16
text by
田中仰Aogu Tanaka
photograph by
Naoki Fukuda
◆◆◆
5月4日、横浜市内のホテルで記者会見が行われる。羽田空港で20人、公開練習で70人規模だったメディアの数は100人を超えた。「すごい人だな」「こんなに集まってるの初めてじゃないか」。そんな記者同士の会話も聞こえてくる。
10日ぶりに見たネリは、プラダのセットアップにサングラスという姿。頬が一層そげ、公開練習のときから見違えるほど細くなっていた。「死を覚悟して戦いに挑む」。ボソボソとした口調はそのまま、会見の去り際に自ら井上に歩み寄る。チャンピオンとの握手に合わせて外したサングラスと、会見中に噛み続けたガムは、リスペクトを表せど飲まれまいとする心理の表れか。
「ネリはギリギリなのでは?」
5月5日、東京ドームホテルで前日計量を迎える。メディアの数はついに200人を超えた。12時35分、またも予定時刻より25分早く、本人を先頭にネリ陣営が現れた。正式計量前の最終確認のため、シャツと靴を脱ぐネリ。あばらが浮き出るほどやせ細った肉体、まるで徹夜明けのような暗い表情。足も棒のように細く見える。リミットをクリアしたのだろう。わずかに笑みを浮かべながらパンチモーションを見せた後、トレーナーに助けられながら靴を履く。一旦退席する。
12時55分、井上陣営が着席し、その直後にネリが再び登場。先に井上が、制限体重より100グラム軽い「55.2kg」であっさりとパス。続いてネリ、「54.8kg」が読み上げられる。制限から500グラムも軽い。やはり、絞りすぎてはいないだろうか?
計量後、500mlの水をゆっくり飲む井上とは対照的に、ネリは赤色のスポーツドリンクを口に流し込むようにして飲む。シャツと靴を自分で身につけた井上に対し、またもトレーナーに靴を履かせられるネリ。このコンディションで、ボクシングの試合ができるのか。この時、ネリは精神的にも肉体的にも極めて危うい状態なのではないかとさえ思った。
「えっ、何も聞いてないんですか?」
そんな筆者の心配をよそに、メディア集団に混じって座るネリ陣営から歓声が飛ぶ。