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合宿中に強盗被害、16-17xサヨナラボーク…甲子園出場、おかやま山陽監督はジンバブエ代表監督として東京五輪を目指していた! 知られざる“アフリカ予選”激闘録

posted2023/08/17 06:03

 
合宿中に強盗被害、16-17xサヨナラボーク…甲子園出場、おかやま山陽監督はジンバブエ代表監督として東京五輪を目指していた! 知られざる“アフリカ予選”激闘録<Number Web> photograph by Tokyo News Service,Ltd.

この夏2勝を挙げたおかやま山陽の堤尚彦監督。実は4年前は東京五輪を目指し、ジンバブエの指揮官としてアフリカ予選を戦っていた

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堤尚彦

堤尚彦Naohiko Tsutsumi

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Tokyo News Service,Ltd.

 この夏、日大山形、大垣日大と日大系列の甲子園常連校を撃破し、「甲子園3勝」の目標へあと1つにせまった、おかやま山陽高校。
 そのチームを率いるのが、堤尚彦監督だ。青年海外協力隊としてジンバブエで野球の普及に関わり、2019年には現役の高校野球監督ながらジンバブエ代表監督も兼任した。そのアフリカ予選での激闘ぶりを『アフリカから世界へ、そして甲子園へ 規格外の高校野球監督が目指す、世界普及への歩み』(東京ニュース通信社、2023年7月発行 講談社発売)から抜粋して紹介する。本記事はジンバブエの代表監督として選手選考を終えた場面からスタートする――(全4回の第4回/前回は#3

自分で勝手に限界を決めるな!

 選手選考を終えると、ハラレ(ジンバブエの首都)から再びブラワヨ(同国、南西部の都市)へと戻り、代表チームでの合宿が始まった。いよいよ練習へ。キャッチボールの段階からスローイングに難がある選手が多かったため、知念広弥(元・台湾統一ライオンズ)のイップス改善、藤井皓哉(現・ソフトバンク)の育成から誕生したおかやま山陽伝統の「3ステップ」などの投球ドリルを伝授。練習前とはリリースの強さが格段に変わり、選手たちは次々と笑顔に。「次のメニューは!?」と食い気味に聞きに来る選手が続出し、技術練習のつかみも無事成功した。

 選手の技量を考えると、正攻法で戦っても予選突破は難しい。そこで、2日目は走塁練習を重点的に行った。最初に指導したのは、ベースから離れるリードの取り方だ。足に自信がありそうな選手を1人呼び出し、「自分が限界だと思うところまで一塁からリードを取ってみて」と指示を出す。すると、その選手は目測で3メートルくらいの“極小”のリードを取った。すかさず私が叱責する。

「もっとリードを取れるはずだ! 恐れずにリードを大きく取れ!」

 そして、13メートルもの特大のリードを取らせ、投手の一塁けん制に合わせて帰塁を繰り返すも、当然アウトになる。見学している周りの選手たちは「アウトになるに決まっているじゃないか」という、やや白けた表情で、その様子を眺める。これも狙い通りだ。

 リード幅を1メートルずつ縮め、帰塁を繰り返す。12、11、10メートル……。そして9メートルまで短くすると、間一髪でセーフとなった。選手たちは「おー!」と沸く。その瞬間を見逃さず、私が叫ぶ。

「さっき、自分の限界は3メートルと言っていたよな? 本当の限界、自分の能力の半分以下じゃないか。今までの人生も能力の半分以下で生きてきたのかもしれないだろ! 自分で勝手に限界を決めるな!」

テレビは移動したのではなく、強盗に盗まれたのだ

 これは高橋慶彦さんから教えてもらった練習方法で、おかやま山陽では入部してすぐに、新入生全員に必ず取り組ませるメニューだ。この“限界突破”の感覚が自分の体に染み込むと守備でも今まで諦めていた打球を最後まで追うようになるなど、プレーの考え方がガラッと変わる。もっと言えば“生き方”までも変わる体験になる。この練習を境に、ジンバブエの選手たちの表情にも、今までとは違う覇気が感じられるようになった。

【次ページ】 自分を成長させてくれたのがジンバブエ

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