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プロ野球亭日乗BACK NUMBER
野球界に増殖中の“ネット系コーチ”に振り回される選手たち…巨人・久保康生コーチが語るデータ活用の利と害「今日伝えたことが、翌日には違っている」
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph bySANKEI SHIMBUN
posted2023/07/04 17:02
原辰徳監督(左)を支える65歳の久保康生・巡回コーチ
その難しさを久保コーチはこう指摘する。
「我々が選手に教えると、そこで選手が自分でサイトを探してきて、あっちこっちで答え合わせをする。このコーチとやっていることが、本当に正しいのかと、携帯をパッと出し始める。ただ、入ってくる情報が多くなりすぎて、パソコンが重くなってしまうような状態になっている選手は多いんですよ。極端に言えば今日伝えたことが、その夜にネットを見て得た知識を取り入れて、翌日には違っている。本人もまたそういうものを探してしまう」
ネット系“コーチ”の一利一害
久保コーチももちろんデータの重要性は認識している。理にかなった投げかたで正しくボールに力が伝われば、当然、数字上の回転数も上がり、変化球の曲がり幅も大きくなる。ただ、一方で目的はスピン量を上げることではなく、打者を打ち取ることだと語る。
「選手がデータを気にするのは分からんことではないです。でもそこに持っていく技術は、どこにちゃんとあるのかということですね。例えばボールの回転数を上げるためにはバッターに近いところでしっかり指先がボールを噛んで、力の伝わるリリースをしないとダメだし、そうでないと回転軸も立たない。ただ投げたボールが高めばかりではだめです。これは野球の定義です。回転数ばっかり求めて高いところにバンバンバンバン投げても、それは野球の定義から外れている。だから多少、回転数が悪くても、低めに意思の通ったボールをしっかり投げられるように技術を磨かなければならない」
結局、そこがコーチングの基本であり、久保コーチの“魔改造”の原点でもある。
「横川(凱)もそんな感じで(様々なアドバイスを聞きすぎて)迷っていたと聞いています」
久保コーチは続けた。
「身長が175cmの投手と190cmの投手では投げ方は一様ではないですよね。力を出す原理、地球上の物理的なものは不変です。それに対しての僕らのアプローチも変わらないところは変わらない。そういう原理を利用して、それぞれの体格や骨格、体の硬さ、柔らかさに合わせて指導するわけです。だから横川は190cmという長身を生かして、彼の体格に合うように横振りだった腕の振りを縦軌道に修正した訳です。フォームを変えてボールの回転数もスピードも上がったけど、それはあくまで結果なんですね」