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プロ野球亭日乗BACK NUMBER
野球界に増殖中の“ネット系コーチ”に振り回される選手たち…巨人・久保康生コーチが語るデータ活用の利と害「今日伝えたことが、翌日には違っている」
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph bySANKEI SHIMBUN
posted2023/07/04 17:02
原辰徳監督(左)を支える65歳の久保康生・巡回コーチ
“魔改造”の本当の目的
若い投手がまずやるべきことは、自分のフォームを確立することだ。その目的を達成するために、技術的な部分を見ることができる専門のコーチが必要となる。久保コーチの“魔改造”も目的はそこにある。
そうして自分に合ったフォームが作り上げられれば、自然とデータの数字も上がってくる。そこから更に高みを目指すとき、大谷やダルビッシュのように自分の感覚と数字を1球ごとに照らし合わせながら、スキルアップの道標にしていく。それがデータを活用するということなのである。
巨人の若手でプロ4年目の堀田賢慎投手は1年目の20年4月に右肘のトミー・ジョン手術を受けた。そこからリハビリを経て、21年8月に実戦復帰すると、すぐさま自己最速の155kmをマークして注目を集め、3年目の昨シーズンはローテーション入りを期待されもした。しかし一軍では結果を残せずファーム落ち。何より心配なのは昨年のキャンプで投げていたあれだけのパワーボールが、開幕後に球速140km台まで落ちてしまっていたことだった。
「堀田を見て感じたのは、体重移動が少なくて右手がマッチングしていないことでした」
「力を溜める」ことの誤解
久保コーチは語る。
「本人に聞いたら、軸足に力を溜めて、そこで回すことを意識している、と。でもそれってプレート側で投げることになるんじゃないか、という話をしました。もっとホーム側でボールを放して18.44mという打者との距離を短く使わないと損じゃない? バッターにタイミングを与えてしまうんじゃないの? まずそういう考え方を話しました」
多くの投手がパワーを溜める、ということを勘違いしていると久保コーチは指摘する。堀田だけではない。5年目の右腕・直江大輔投手も、そんな勘違いから迷宮にはまってしまった1人だった。
「直江の場合も左足が上がってホーム側に体重移動しようとするときに、パワーを溜めようとして逆に右足でブレーキをかけていた。野球の言葉ですごく難しくて、選手を迷わせてしまうのが、『溜めろ』、『残せ』、『開くな』なんですね。投手の場合は投球の過程で『溜めろ』というと、足を上げて動かないのが溜めだと思ってしまう。そこから軸足の膝を曲げて、重心を落として動きに入るから、今度は手も遅れるし、左肩も開いてしまう」