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「前田日明vs“霊長類最強”カレリン」はいかに実現したのか? 引退試合につながった、前田とリングス戦士の深い絆「心と心で話しているか、って」 

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堀江ガンツ

堀江ガンツGantz Horie

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posted2023/03/31 11:03

「前田日明vs“霊長類最強”カレリン」はいかに実現したのか? 引退試合につながった、前田とリングス戦士の深い絆「心と心で話しているか、って」<Number Web> photograph by AFLO

1999年2月21日、前田日明は自身の引退試合にて、五輪レスリング3連覇のアレキサンダー・カレリンと対戦した

引退試合「前田vsカレリン」が実現するまで

――そういったロシアの人たちとの強いつながりが、前田さんの引退試合でのアレキサンダー・カレリン戦の実現に結びついたんじゃないですか?

前田 カレリンのことは、彼が18歳くらいのときから知ってたんですよ。だからリングスに引っ張りたい気持ちは前からあったんだけど、彼の周りがしっかりしていて離さなかったんでしょうね。カレリンが俺と試合をした頃って東シベリアの石油の権利を持ってたんだよ。だから当時のロシアのアマチュアレスリング連盟も彼のポケットマネーでやってたし、オリンピック委員会なんかもほとんどがカレリンがお金を出してたんだよ。

――よく、そういう選手をアマチュアの現役バリバリのままプロ興行に出場させましたね。

前田 それはパコージンががんばってくれたんですよ。だから俺はパコージンにはすごい借りがあるんだよね。彼は(2008年9月に)飛行機事故で亡くなったんだけど、あの男はもったいなかったね。すごく優秀だった。俺がロシアのことをいろいろ考えて意見やアイデアを言ったら、いつも同じようなことを考えていたし、新しいことでも理解が速かったよ。やっぱり旧ソ連で官僚として事務次官にまでなるって、とんでもない競争があるわけじゃん。それを勝ち抜くだけのインテリジェンスというか頭の良さはあったよね。

カレリン本人が試合を引き受けた“最大の理由”

――カレリン戦は内定したあとも、一度話がなくなりそうになったと聞きました。

前田 そうそう。カレリンの側近たちが、「オリンピックの4連覇がかかってるのにケガしたらどうするんだ、やめろ」って言ったんだよね。それで、今までロシアのオリンピックやスポーツ関係には、リングス・ロシアが関わってるから、みんなで説得を試みたんだよ。だけど、カレリンの耳に直接届く前にもう、側近が「こんなことはできない」って言っててさ。

――完全にガードされちゃってたわけですね。

前田 それでパコージンがカレリンと直接話したんだよ。「ペレストロイカでスポーツマスター制度が廃止になって、年金が打ち切られて食えなくなったロシア人を前田は何十人も助けた。前田ほどロシア人に尽くした人間はいない。あなたもロシアで英雄って言われるくらいの人だったら、ロシア人にとって借りがある彼のために1試合くらいしてやってもいいじゃないか」って言ってね。そしたらカレリンが、「それはホントか?」となって、それで彼自身の判断で試合をやってくれたんだよね。

――それは話が全部つながりますね。心と心で付き合っていたからこそ実現したという。

前田 だからパコージンは、リングスや格闘技界のために、本当によくやってくれたんですよ。リングスが終わってからもパコージンが頑張ったから、コマンドサンボもあそこまで広まったしね。そういう人がいて、いまの格闘技界があるっていうのは、忘れちゃいけないと思いますよ。

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「もう全盛期と比べて見る影もないね」前田日明が“ヒョードル引退試合”に感じた本音…リングスの総帥が“人類最強の男”と出会った日

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