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前田日明「殺されても仕方がないのが真剣勝負」ヴォルク・ハン、“ソ連軍隊格闘術の使い手”だった男はなぜプロのリングで輝いたか?

posted2023/03/31 11:02

 
前田日明「殺されても仕方がないのが真剣勝負」ヴォルク・ハン、“ソ連軍隊格闘術の使い手”だった男はなぜプロのリングで輝いたか?<Number Web> photograph by Susumu Nagao

前田日明に発掘され、1991年にリングスデビューを飾ったヴォルク・ハンは“ダゲスタン出身のサンビスト”の先駆けだった

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堀江ガンツ

堀江ガンツGantz Horie

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Susumu Nagao

現在、MMA(総合格闘技)メジャーシーンでは、UFCを無敗のまま引退したハビブ・ヌルマゴメドフをはじめ、現UFC世界ライト級王者イスラム・マカチェフ、現Bellator世界ライト級王者ウスマン・ヌルマゴメドフなど、ロシア・ダゲスタン共和国出身で、コンバットサンボをベースとしたファイターが世界を席巻している。

その源流として、プロ格闘技の世界に初めて登場したダゲスタン出身のサンビストが、1991年12月にリングスでデビューしたヴォルク・ハンだ。そのハンを発掘した前田日明に、当時の知られざる話とダゲスタンの選手たちの強さを語ってもらった《NumberWebインタビュー第2回/#3につづく》。

◆◆◆

――今、UFCをはじめMMAではロシア勢、とくにダゲスタン共和国出身のコンバットサンボをベースにした選手が世界を席巻していますけど。プロ格闘家でダゲスタン出身のサンビストといえば、まさにリングス・ロシアのヴォルク・ハンが先がけですよね。

前田 先がけもなにも「コマンドサンボ」の名付け親は俺だからね。

――えっ、そうなんですか!? もともとロシア語で「バエヴォエサンボ(Боевое самбо)」と呼ばれてたんですよね。

前田 その「バエヴォエサンボ」っていうのは、「軍隊のサンボ」って言う意味で、スポーツ競技でもなんでもなかったんだよ。でも、戦場の実戦で使う技術を持った人をプロのリングに上げるのは面白いなと思って、その時、日本でわかりやすいように付けた名前が「コマンドサンボ」。

――それが今、欧米で「コンバットサンボ」という呼称になっている、と。

前田 そうそう。

ハンをいきなり抜擢した理由

――でも、リングスにロシアの選手が初めて参戦してきた1991年の12.7有明コロシアム大会で、柔道やレスリングの世界チャンピオンクラスが他にいる中、日本ではまったく知られてない格闘技だったコマンドサンボの使い手、ハンをメインイベントに抜擢した理由はなんだったんですか?

前田 よく「真剣勝負」って言うじゃん。でも、試合に負けても死なない。俺に言わせれば、それは真剣勝負でもなくてゲーム。負けたら死ぬのを想定していて、殺してもいい、殺されても仕方がないのが真剣勝負で、それを経験している奴が本当の武道家なんですよ。俺がずっと思ってるのは、現代においてそういう経験をしているのは軍隊にしかいない。だから軍隊格闘技にはすごい興味があったんですよ。

 それで選手のスカウトのためにロシアに行ったとき「軍隊格闘技の経験者、戦場の経験者はいないのか?」って聞いたら、「ひとりいる」と。スポーツサンボもやってた選手でいまは軍事学校で教官をやってると。それがハンだったんですよ。ただ、ハンは当時軍事学校の教官だったから、直属の軍の将軍を説得しなきゃならなかった。

――なるほど。柔道家やスポーツサンボの選手ならスポーツ省と交渉すればいいけど、ハンの場合、軍の将軍を説得しなきゃいけなかったわけですね。

【次ページ】 ソ連軍の“軍隊格闘術の使い手”がプロのリングに上がるまで

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