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アントニオ猪木の格闘ロマンは“14歳の孫”に受け継がれ…「深く、深く感謝」「すべて真似しました」カメラマンが綴る「お別れの会」の情景
posted2023/03/10 17:04
text by
原悦生Essei Hara
photograph by
Essei Hara
「ゆっくりと猪木が背中を見せながら遠ざかっていく。思えばこの背中に、幾多のイメージがありました。この闘魂ガウンの背中に、数多の物語がありました。すべてを見せつけ、すべてを抱え込んで、今、猪木がゆっくりとあの世界へと進んでいきます。猪木。今、われわれに一瞬振り向いた。無言だ。また、きびすを返して、進んでいく。猪木の身体が小さくなっていく。深く、深く感謝します。猪木さん、最後まで肉体のブルースを奏でてくれて、ありがとう」
3月7日、両国国技館で行われた「アントニオ猪木お別れの会」で、古舘伊知郎は猪木に語り掛けた。リングの向こうには闘魂の2文字。その上では猪木が笑っている。
古舘伊知郎の「猪木ハイ」と、猪木の優しい笑顔
猪木がいると、猪木を考えると、どうしても、古舘は「猪木ハイ」になってしまう。言葉が湯水のように湧き出てしまう。抑えることのできない猪木ハイ。
そうだ、猪木が闘病していた自宅のベッドサイドでも、古舘の実況は止まらなかった。何時間でもしゃべり続けることができた。
「猪木さんが起き上がるまでしゃべり続ける!」
背中を向けた猪木がそれを子守歌のように聞いている。
「さあ、アントニオ猪木!」
一段と大きくなった声に、猪木が病人とは思えない巧みな寝返りを打ってこっちを向いた。そして猪木は「いつもうるさいんだよな」と小さな声で言うと、優しく笑った。
猪木が静かなほど、周りには逆転現象が起きた。「もっと、猪木を」という思いがそうさせてしまうのかもしれない。
「もう、いいじゃないか、猪木」と勝手に言っておきながら、もっと猪木を見ていたいという自分に気づく。
「ゆっくり休んでください、と言われるけれど、誰も休ませてくれない」という猪木も、なぜかそれを歓迎しているように見えた。