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「チェルシーの新オーナーは正直不可解すぎる」「ファンを一番落胆させたのはリバプールだ」プレミア“驚きの”前半戦を英国記者が評価する
text by
ジョナサン・ウィルソンJonathan Wilson
photograph byAFLO
posted2023/02/11 17:20
20戦を終えて、10位に沈むリバプール。エースのサラーも不調が続き、写真のブライトン戦(1月15日)も0-3で完封負け
もちろん、負傷者の多さが不調を招いた大きな要因のひとつである。ユルゲン・クロップ監督が採用するハードなプレッシングフットボールは、ピッチ上の全員の完全なる献身がなければ成り立たないもので、どこかひとつのエリアで不具合をきたすと、チーム全体が機能しなくなる。激しくプレーを続けてきたベテランの心身が軋み始めても不思議ではなく、特にファビーニョやフィルジル・ファンダイクらは衰えを隠せなくなってきている。
リバプールは2020-21シーズンに同じように大きなスランプに陥ったが、その時はセンターバックの主戦級が軒並み負傷離脱したうえ、コロナの影響でスタンドに観衆がいなくなり、相手を威圧するようなアンフィールドの雰囲気がなくなっていた。その意味では、明らかな原因が見出しにくい今シーズンの不調の方が深刻かもしれない。2015年10月にリバプールの指揮を執り始めてから、クロップ監督がこれほどまでにやつれて見えるのは初めてだ。元は絵に描いたように快活な人だっただけに、その落差は鮮明だ。クラブのOBで現在はイングランドでもっとも著名な解説者のひとり、ジェイミー・キャラガーはもう来夏の話をしており、戦力補強に2億5000万ポンド以上を投じるべきで、少なくとも「3人のセントラルMF」が必要だと主張している。
「理解に苦しむ」チェルシーの新オーナー
チェルシーは今季だけで推定6億1000万ポンドを超える巨費を戦力補強に投じながら、なかなか調子が上向かない。アメリカ人の新オーナー、トッド・ボーリーの行動には首を傾げてしまうことばかりだから、それも仕方ないことかもしれないが……。
夏の移籍マーケットでは、当時の指揮官トーマス・トゥヘルの意見を聞いて戦力を整えながら、市場が閉じられた数日後にそのドイツ人監督を更迭したのだから、理解に苦しむ。しかも夏に加入した大量の新戦力のうち、完全なレギュラーとなっている選手はひとりもおらず、もともとバランスの悪かったスカッドをさらに歪ませている印象だ。冬にはそこにさらに8人を加え、グレアム・ポッター監督も「選手が多すぎるとチームをうまく維持するのが難しくなる。なぜなら選手は誰もがプレーしたいからだ」とこぼしている。
冬の新戦力は皆、23歳以下の若手だが、その途方もない巨額に見合うだけの才能かはわからないし、クラブに彼らを成長させていく長期的なプランがあるのかも不透明だ。元イングランド代表のダニー・マーフィーは「チェルシーは無闇にカネを使い過ぎている。しかもそうして迎えた新戦力がほとんどチームに貢献せずに、自らのキャリアも下降させてしまうこともある」と指摘した。
「ロナウドの放出は大成功だった」
一昨年の10月にサウジアラビアの国家ファンドを中心としたコンソーシアムが買収したニューカッスルは、世界でもっとも裕福なクラブのひとつになったが、カネの使い方はチェルシーほど無分別ではない。ここまでの3度の移籍マーケットで、彼らは推定2億7500万ポンド以上を投じ、的確な補強を続けている。スベン・ボトマンはじきにプレミアリーグでも指折りのセンターバックに成長しそうな好タレントで、キーラン・トリッピアーはあらためて攻守に高い能力を発揮し、ブルーノ・ギマラエスは創造的かつ知的なゲームメイクで全体を動かしている。