羽生が4回転アクセル挑戦を公言したことの意味とは…？

「フィギュアスケートは採点競技でスポーツなのか？　と疑問視する人っていると思うんです。でも羽生選手はジャンプなどを筆頭に技術を向上させ、競技性を高めていった。彼が挑戦し、新しい地平を拓いたことで、ネイサン・チェンやイリア・マリニンが後を追うように出てきたと思います。
　でも羽生選手が挑戦していなかったら、クワッドアクセルなんて誰もやろうとしない時代がこれからもずっと続いたかもしれない。人知れず練習することも大事なのですが、個人で練習しているだけだと、業界全体としては頭打ちのままで、レベル向上にはつながらない。その挑戦を公言し、みんなが知っている中で挑む姿を見せ続けたことがとても重要だったなと思うんです。そうすることでフィギュアスケートが『4回転時代』に押し上げられた側面はあるのかなと。
　他の競技を見ても、日本の男子100mで、桐生祥秀選手が初めて9秒台に到達し、9秒台を出す選手が他にも出てきた。サッカーだと三浦知良さんや中田英寿さんが海外に挑戦し、他の日本人選手にも海外に挑戦するという道が示された。羽生選手はそういったパイオニアのような存在だったと思います」

2016年スケートカナダ　©Tsutomu Takasu

2016年世界選手権　©Tsutomu Takasu

　だからこそ、フィギュアスケート界の他の選手に大きな影響を与えた羽生結弦のプロ転向を「1つの時代の区切り」と高須は表現する。ただ、羽生はプロ転向を表明した会見で「引退なのかって言われたらそんなことはない」と現役生活の区切りではないことを強調した。高須はその後のプロスケーター・羽生結弦をどう見ていたのか。

「あの後、いろいろ考えていたんです。彼のその後の活動を見ていくと、羽生選手はそれが競技会だろうが、エキシビションのリンクだろうが、自分の地元のリンクであろうが、東京ドームだろうが、舞台は関係ない。身体が動く限り、自分の伝えたいこと、表現したいことをスケートを通してリンク上で行っていくということなのかな、という印象を抱きました。たしかにそう思うと引退ではないな。と。それを自分なりの考えを持って言えるのがすごいな、と思いました」

羽生選手とは異なり、僕はすぐだらけてしまうタイプなので（笑）

　高須はこれまでの撮影を通して、羽生からどんな影響を受けたのか。そう聞くと、恐れ多いといった表情で苦笑いを浮かべながらこう答えた。

「羽生選手とは異なり、僕はすぐだらけてしまうタイプなので（笑）、強制的に追い込まれる環境を作らないと、モチベーションを維持できない。個人としては、自分を追い込む、プレッシャーをかけるために、5年に1回、個展をやると決めて、公言しています。公言といっても、クワッドアクセルに挑戦し続けた彼とは比べ物になりませんが、それでもどんな世界の人間だって、上を目指すとか、そういう意識を持っていないと退化してしまって、成長はないのかなと思っています」

来年3月に東京、7月に大阪での開催が決定した高須の個展。「フィギュアスケートはもちろん、それ以外にも20種目以上の競技を取り上げています。今回は『この写真、今にも動き出しそうだな……』というのをテーマにしています」（高須）

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