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「日本には知性が欠けていた」悔しさを滲ませつつもトルシエがコスタリカ戦を辛口総括「前半はまるでトレーニングマッチ」
posted2022/11/30 17:03
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph by
Miki Fukano
日本がコスタリカに敗れたのは、ドイツ戦の勝利の後であっただけに大きな驚きだった。それはフィリップ・トルシエにとっても同様で、ドイツに勝ったことで得たアドバンテージを、自ら手放してしまった日本を彼は心から残念がっていた。
そうであるならばトルシエはコスタリカ戦をどう見たのか。直前に発熱したために膝の手術が延期となったトルシエに、2回にわたって話を聞いた。1回目は日本対コスタリカ戦のあと、2回目はスペイン対ドイツ戦の後である。悔しさを滲ませつつも、彼の言葉は冷静かつ客観的であった。
日本が選んだのは個の力による戦いだった
——コスタリカ戦は見ましたよね。
トルシエ ああ、見た。もちろん突破への可能性という点では失望した。たしかに数字の上ではまだすべてが可能だし、ドイツが今夜敗れた場合はスペインの突破がほぼ確定する。そうなればスペインは日本戦でメンバーを変えてくるから、スペインがドイツに勝つことを願うしかない。
しかしドイツも勝ち点4あれば十分で、グループリーグを突破できる。彼らがコスタリカに勝つ可能性は高い。ドイツに可能性を与え、日本が絶好の機会を逃したのは本当に残念だ。
日本は……試合を支配したのは間違いない。ただ、低い位置にブロックを敷いた相手との戦いでスペースはなかった。それから日本のチーム構成もいいとはいえなかった。
日本が選んだのは個の力による戦いだった。プレーは個人技が中心で組織力を欠き、それが結果へと繋がった。低いブロックを崩すには2人・3人・4人のコンビネーションが必要だ。しかし日本はドリブルなど個のプレーに頼り、スペインのようなコレクティブな組織力を発揮できなかった。スペインがコスタリカを7対0で破ったのは、トライアングルなどを多用して組織で相手を崩したからだ。日本には南野(拓実)や三笘(薫)、浅野(拓磨)、鎌田(大地)、堂安(律)ら優れた選手たちがいて駒は揃っていたが、いかんせん個の力ばかりに頼り過ぎた。
——ターンオーバーはどう見ていますか。先発した選手たち……上田(綺世)や守田(英正)らがナイーブなミスを連発したことが、前半の日本の攻撃が効果的ではなかった理由のひとつではありませんか?
トルシエ 前半の日本は攻め急ぐ必要はなかった。日本は高い位置にブロックを構えてボールを奪い、ゲームを完全に支配したがボール回しが効果的ではなかった。クロスは幾度となくあげたが、2人ないし3人でのコンビネーションが足りなかった。イニシアチブをとりながらも攻撃は危険ではなく、前半の日本には見るべきものがほとんどなかった。
私が理解できなかったのは長友(佑都)を交代させたことだ。代わって入った伊藤(洋輝)はまったく無力で、しかも彼は守備の選手で攻撃はできない。どうして長友を代えたのか。3バックにシステムを変更しても長友はプレーできるし、守備面で何かを強化する状況ではなかった。日本の問題は攻撃にあり、守備は何の問題もなかった。またコスタリカの攻撃にも危険は何もなかった。後半、彼らは一度だけシュートを打ち、それがゴールに結びついた。