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53キロで無差別級に“本気の挑戦”…角田夏実はなぜ“笑っていた”のか?「90キロ、76キロに連勝」巴投げを浴びた選手の証言「階級が違うとは思えない」

posted2025/04/23 17:18

 
53キロで無差別級に“本気の挑戦”…角田夏実はなぜ“笑っていた”のか?「90キロ、76キロに連勝」巴投げを浴びた選手の証言「階級が違うとは思えない」<Number Web> photograph by AFLO

4月20日、角田夏実は無差別級の全日本女子柔道選手権に出場。自分よりはるかに体重の重い相手から2勝をあげた

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布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

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AFLO

 角田夏実は本気だった。

 4月20日に横浜武道館で開催された、皇后盃全日本女子柔道選手権大会。最軽量級の自分が無差別級でどこまで通用するのか。

 パリ五輪女子48kg級で金メダルを獲得後、角田は「これからは柔道を楽しんでやっていく」と宣言した。しかし、その楽しさとは、階級別で世界の頂を目指す道程とは別の試練を自らに与えることだった。

困難な挑戦…それでも“悲壮感”とは無縁だった

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 皇后盃は無差別級で女子日本一を争う大会だ。最近の優勝者の顔触れを振り返ってみると、昨年は78kg超級の瀬川麻優、一昨年は78kg級の梅木真美と重量級ばかり。当たり前といえば当たり前だが、歴史を遡っても最軽量級の選手が優勝した例はない。61kg級を本職としながら第1回大会を制した八戸かおりが記録上もっとも軽い階級の優勝者だろう。

 角田自身、柔道の醍醐味である“柔よく剛を制す”が生やさしいものではないことは、過去2度の皇后盃への挑戦で十分にわかっていた。初出場となった2020年大会では57kg級の選手に初戦敗退という苦汁を飲まされた。その反省を踏まえ、翌21年の大会では78kg超級(105kg)の田中里沙に果敢に巴投げをかけるなどして勝利を収めている。

 今回は三度目の正直だった。その本気度を示すかのように、大会直前、角田は48kg級の日本代表の座を辞退し退路を断っていた。そんな角田の挑戦を一目見ようと、大会のチケットはソールドアウトになるなど、試合開始前から場内は異例の熱気に包まれていた。

 もっとも、前人未到の領域に挑む日本人アスリートに漂いがちな“悲壮感”とは無縁だった。試合前、通路で自分の出番を待つ間には笑みを浮かべるなど、終始リラックスした空気を漂わせていた。試合後には「楽しみもあれば、緊張もあった」と打ち明けていたが、少なくとも第三者から見れば後者は皆無に映った。

「1回戦は体重差37kg」それでも仕掛けた巴投げ

 1回戦の相手は体重90kgの高校3年生・鋳山真菜実。大会当日53kgで畳に上がっていた角田とは実に37kgもの体重差があった。そんな鋳山を相手に、角田は巧みな組み手と技の切れ味で勝負する。鋳山が動く前に巴投げを積極的に仕掛けるなど、常に試合の主導権を握っていた。

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#角田夏実

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