トルシエ　この試合は、リーグ戦突破の鍵を握る試合でもあった。その大事な試合の前半を、森保はまるでトレーニングマッチであるかのように消費してしまった。

——W杯本大会の試合を、そんな風に使ったのは森保監督が初めてかも知れません。少なくとも過去の日本代表では例がないです。

トルシエ　上田や相馬らの起用は、たとえ彼らがフレッシュであっても、選手たちの心理面にネガティブな影響を与える。チームに不安と疑念が生じたかも知れない。今日のチームが日本のベストメンバーでなかったのは間違いない。後半から投入した伊藤も、プレーの経験があまりない。長友から伊藤への交代はいい兆候ではなかった。彼らはグループを堅固にする選手たちではないからだ。

　今日のチームに必要だったのは保障であり安定だった。森保は不必要なリスクを冒して保障と安定が必要だった試合を危険にさらした。残念ながら彼のコーチングは失敗に終わった。

　組織的なコンビネーションでプレーすべきだったのに、個人の力に偏り過ぎた。1対1の戦いでは、コスタリカも日本に負けていない。日本を上回っていたとさえいえる。コレクティブな組織を欠いた日本は大きな問題に直面した。スペースをこじ開けられない日本には、三笘の突破以外には何の怖さもなかった。

スペイン戦をどう戦うか？

——かえすがえすも残念でした。

トルシエ　状況は厳しくなったが、ドイツがスペインに敗れた場合はすべてが可能だ。

——コスタリカもほんの僅かではありますが可能性が出てきました。それではスペイン・ドイツ戦終了後にまた電話します。

（スペイン対ドイツ戦後、再びトルシエに電話）

——試合は引き分けに終わりました。

トルシエ　素晴らしい試合だった。ドイツは守備面でレベルの高さを見せた。絶対的に防がねばならないスペインの攻撃を失点1で防ぎきり、ドイツは生きながらえることができた。勝ち点1を得たことで、彼らは自らの運命を手放さずに済んだ。しかしその運命は、最終戦でスペインが日本に勝つことを前提としている。

スペイン対ドイツ戦のフュルクルクの同点ゴールシーン。双方が持ち味を発揮した好ゲームだった　©Getty Images

——日本の状況はさらに厳しくなりました。勝ち点1は絶対に必要ですが、ドイツがコスタリカに勝った場合はドイツと得失点の争いになります。ドイツが2点差以上で勝つ可能性も高いです。

トルシエ　日本は勝利が必要だ。スペインはこのドイツ戦でも優勝候補であることを存分に見せつけた。スペクタクルなプレーでボールを容易に失わない。素晴らしい試合を実現したが、ドイツも守備面で素晴らしかった。途切れることなくプレスをかけ続け、スペインの攻撃を容易に構築させなかった。同じようにスペインにプレスをかけられなければ日本は厳しい。

【次ページ】　引き分ける可能性は五分五分だ