マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「社会人野球の打診をカープが断った」19年前の広島ドラ1捕手・白濱裕太…18年間で一軍出場わずか86試合なのに、なぜ“戦力外”にならない?
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKYODO
posted2022/07/01 11:00
今年でプロ19年目になった広島の捕手・白濱裕太(36歳)。写真は2011年、プロ初安打となるサヨナラ打を放ち、ナインに祝福される場面
「ファームの遠征で、泊まるホテルのランクが一軍と違うのはしょうがない。でも、体を作っている最中の若い選手たちの食事が偏ってないか。茶色いもんばっかり、つまり、揚げ物ばっかりでいいのか。せっかくの栄養も、いっしょに色のついた野菜もたくさん摂らんと吸収されんのじゃないか。そんなこと、訴えたりするらしいですよ」
白濱がおった頃は、監督(自分)が楽じゃったもんねぇ……そんな言い方をして、中井先生が笑った。
「甲子園に出た時なんか、ミーティングじゃいうて部屋に行くと、相手の打線の長所・短所とか、前の試合の傾向とか、僕が行く前に白濱がホワイトボードに書いて、もうミーティングやっとる。僕の出る幕ありませんよねぇ……あいつがキャプテンしよった時に全国制覇させてもらいましたけど、あの時の広陵は、“白濱のチーム”でしたね」
主役は選手。
まさに、言葉通り体現してみせたのが、広陵高当時の白濱だったのだろう。
「出来れば白濱さんに受けてほしいぐらいのこと、言いよるピッチャーも結構おるらしいですよ」
今年のウエスタン・リーグの記事を見ていても、復調途上や故障明けの投手が登板すると、白濱がマスクをかぶることが多いようだ。
今回、「白濱裕太選手」を取り上げた話なのに、敢えて本人にはお話を伺わなかった。
「訊いても、たぶん言わんでしょう、裕太は」
そんな恩師のひと言が、スッと胸に落ちたからだ。
古いことわざに、駕籠(かご)に乗る人、担ぐ人、そのまたワラジを作る人、というのがある。
普段見ているプロ野球は、ナイター光線に照らされたグラウンドで選手たちが躍動する華やかな場面ばかりではあるが、ふっと立ち止まって「この投手はどんな人たちの骨折りで不調から立ち直り、再び一軍のマウンドで奮投できているんだろう」……ときには、そんなことに思いを馳せる時間があってもよいのかもしれない。