「わかんないよ～そんなの、やってみなくちゃ……」

　私の弱気な本音をスッと引き出してくれた、そんなひと言だった。

「いつでも代わりますから」

　白濱捕手の優しい言葉で、楽になった。そして、次の瞬間、「代わられてたまるかあ！」みたいな闘志が沸き上がったのを覚えている。

「すごいっすね～。健太朗のボール、バンバン受けられるんですね」  

　40球ほどの「捕球」の後、ほんとに驚いてくれた温厚そうな顔が忘れられない。

カープOBの証言「キャッチャーはケガが多い」

「彼は手放さんでしょう、カープは。それだけの選手だし、人間ですよ、白濱は……」

　広島カープの一軍、二軍でバッテリーコーチを17年務めた片岡新之介氏。

　白濱捕手の入団とちょうど入れ替わりでカープのユニフォームを脱いだが、それ以降も「カープOB」として、特に若手選手の動向に目を凝らしてきた。

　現在は、呉市の呉港高監督として「古豪復活」に全力を尽くす。今年75歳になるというが、自らユニフォーム姿でグラウンドに立ち、手取り足取りで指導する身のこなしと声の張りは、「現役」そのものだ。

「辞めた石原（慶幸）や、今の會澤（翼）も高い技術持ってますけど、白濱だって、ディフェンス能力だったら、互角ですよ。若いキャッチャー育てるっていう球団の方針でなかなか出場機会がなかったけど、キャッチャーっていうのはケガの多いポジションです。長いペナントレースの中では、レギュラーと控えの一番手が、両方とも故障してしまうこともある。そこに、白濱みたいな技術のしっかりしたのがいたら、チームにとって、こんなに安心なことはないでしょ。保険の保険、言うんかな」

　選手生活17年。捕手だった片岡はその終盤の2年間、阪急ブレーブスのファームで過ごした時期があったという。

「ファームで若いピッチャー、育ててくれっていうことですね、キャッチャー目線から。正直、最初は『なんだ、ファームか』って思いましたけどね、これがやってみると、大事なんだね。プロのピッチャーぐらいになると、ファームでも、コーチの言うことを素直に聞くとは限らない。プライドも自信もありますからね」  

「白濱が欲しい」社会人野球チームから打診もあった

　選手は指導者のこと、よ～く見てますよ。そこから、自分のための指導者を選んでいくんです、黙ってますけど……。以前、あるコーチ経験者の方が、そんなことを教えてくださったことがある。そこで、ブルペンで投球練習の相手をしたり、ウエスタン・リーグの実戦でバッテリーを組むベテラン捕手の出番になる。再び片岡氏の証言だ。

【次ページ】　「白濱が欲しい」社会人野球チームから打診もあった