将棋PRESSBACK NUMBER
「藤井聡太さんは本気で将棋を極めたいと考えているはず」“プロ棋士への道が終わった三段リーグ5連敗”の絶望後「あらきっぺ」に差した光とは
text by
白鳥士郎Shiro Shiratori
photograph byTakashi Araki
posted2022/05/24 17:02
三段リーグでの荒木隆と藤井聡太の対局
「将棋はメンタルも影響しますからね。三段リーグの空気感は、二段以下とは完全に別物です。それに慣れる精神力を得るのは、棋力にも繋がるとは思いますが」
——そこで勝ち抜いていくのは、どんなタイプですか?
「他人にどう思われても気にしないタイプが強いと思います。他人のことを、いい意味で、切り捨てるというか。無視するというか、視界から排除するというか……気にしないタイプですね。
他人のことを思うと、三段リーグはきついです。長年切磋琢磨してきた人間が去ってしまうのは、きつい……」
——なるほど。人柄や性格が棋力向上に影響するとお考えでしょうか?
「私は棋譜を見れば、その人の性格が見えてくるんです。指し手や消費時間などから、何となく見て取れる。そしてそれがけっこう当たるんですよ。
棋力を伸ばすという観点で言うと、今は相当シビアにならなければいけないと思います。勝つためには、ダメなものをアンインストールしないといけない。好きなものを捨てきれる覚悟を持てるかが問われます」
藤井さんは本気で将棋を極めたいと考えているはず
——あらきっぺさんの目から見て、藤井竜王はどんな性格だと思われますか?
「藤井さんの発言を見ていると、非常にストイックな感じを受けますね。何らかの甘さがあると将棋にも出てしまうはずですが、藤井さんは本気で将棋を極めたいと考えているはずです」
——しかし、あの若さで一人だけ突き抜けて強くなってしまったとしたら……将棋へのモチベーションは続くものでしょうか?
「ええと……海は、波が必ず起こりますよね? 高い低いの差はあるけれど、波は常に続いている」
——モチベーションも、そういうものだと?
「棋力というのは、高くなれば見えるものが違ってくるんです。上にいけばいくほど、見えるものがもっと増える。『この先はどうなんだろう? もっと先はどうなっているんだろう?』と。人間の寿命では、その波は止まらないと思いますね」
——最後に、これは非常にセンシティブな質問になってしまうんですが……奨励会の、最後の対局。勝てば勝ち越し延長ができた対局で、負けて退会になってしまったときのことを教えていただけますか?
「最後の三段リーグについて言うと……私、開幕5連敗しているんです。そこから何とか勝てるようになって、0−5から9−8になって、最終戦を迎えるんです」
——じゃあ最後の最後まで、希望を捨てずに戦ったんですね?
「0−5の時点でもう覚悟したんです。『自分はもう棋士にはなれないし、終わったんだな』って。
私は三段リーグで一度も勝ち越しができなかったんですけど、一度も勝ち越せない人間が0−5になっているって、普通はゲームオーバー。客観的に見ても主観的に見ても、ゲームオーバーだなって。だから、そこからはもう、目としては勝ち越し延長が残っているんですけど、気持ちとしては終わったんですよ。正直なところ。
だからもう……結構、その……5連敗してからの残りの13局は、勝つにしろ負けるにしろ、淡々としていたところはありましたね」
最後の将棋が、大熱戦だったんです!
——その13局の中には、藤井竜王と対戦した16回戦も含まれています。