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藤井聡太の強さに「人間をアンインストール」「落合監督時代の中日」的な部分が? 奨励会で対戦した“異色将棋本の著者”が語る天才の深み
posted2022/05/24 17:01
text by
白鳥士郎Shiro Shiratori
photograph by
日本将棋連盟
「むしろ……藤井聡太さんは全然、人間ぽくないですけどね。正直」
異色の将棋本としてベストセラーとなっている『現代将棋を読み解く7つの理論』。その著者・あらきっぺは、経歴も異色だ。
本名は荒木隆。元奨励会三段。年齢制限で奨励会を退会となってからは、現代将棋に関するブログを執筆しつつ、アマ大会で活躍。
2019年には、アマチュアとして出場した朝日杯で、今期叡王戦で挑戦者となった出口若武六段にも勝利している。
さらに将棋ソフト『水匠』と100日間対局を続けるという荒行を敢行し、その直後に出場した将棋ソフトの大会では、生身の人間であるにもかかわらず不利な後手番でソフトを相手に引き分けに持ち込むなど、現代において最も将棋ソフトの棋風に詳しい人間の一人といえる。
インタビューの第2弾では、そんなあらきっぺの口から飛び出した「藤井聡太の将棋には人間ぽさが無い」という言葉の意味を、徹底的に掘り下げる。(全3回の2回目/#1、#3へ)。
「人間ぽさ」を感じなくなったきっかけとは
——無いですか。人間ぽさ。
「まるで無いですよね」
——相掛かりを指し始めた頃からですか?
「相掛かりを指すようになったのって、2020年の11月くらいでしたっけ?」
——そのはずです。『水匠』の開発者である杉村達也さんと対談した際に『dlshogi』のことを聞いて、それがきっかけになったはずなので。
ここでいう杉村と藤井の対談とは、新人王戦の主催紙である『赤旗』紙上で行われたものだ。
杉村によれば、この対談は偶然にも第1回電竜戦の初日に行われており、その電竜戦で優勝したのがチームdlshogiの『GCT』だった。ディープラーニング系のソフトが初めて大会で優勝した転換点である。
水匠をはじめとする従来型の将棋ソフトはCPUという半導体チップを使う。藤井は50万円もする高価なCPUを購入したことで話題となったが、それは水匠を効率よく動かすためだった。
しかしdlshogiはGPUという別の半導体チップを使用する。
そしてdlshogiの得意戦法が、今や藤井の得意戦法となった相掛かりなのだ。
「相掛かりを指し始める、もうちょっと手前あたり……渡辺(明)先生から棋聖を奪った頃にはもう人間離れしています。
藤井さんの指していた将棋を見ると、間違いなくソフトと対局しているなと感じていました。ご本人が『ソフトと対局している』という発言をされる前から、将棋の造りというか、この……ソフトとしか言い様のない指し回しというか。人間的な要素がどんどん消えていくような」
豊島先生の将棋も人間ぽくないな、と思いますが
——あらきっぺさんが奨励会時代に理想とした豊島将之九段も、かつてソフトと集中的に対局していました。豊島先生の将棋からは、そういったものは感じませんか?
「豊島先生の将棋も人間ぽくないなとは思いますけど……藤井さんは、語弊があるかもしれませんが、人間の感覚をどんどん捨てようとして、ちゃんと捨てきった姿になっていると思うんです。でも豊島先生は、捨てる努力はしたんだけど、捨てきれなかったような感じが、ちょっとしますね。
棋士と棋士が対戦すると、どうしてもソフトが指してこないような手が現れるわけですよ。藤井さんは人間の手が来たときに、ソフトの手で返している気がするんです。が、豊島先生は、そこで人間の手を返しているような気がします。
藤井さんにしろ、豊島先生にしろ、ソフトの棋譜を使って勉強しているんだと思います。だからソフトの手には、ソフトの手で返せる。でも、人間の手が飛んできたときにソフトの手で返せるかというと、そこは……」
——それまで培った人間の感覚が出てしまう?