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「藤井聡太さんは本気で将棋を極めたいと考えているはず」“プロ棋士への道が終わった三段リーグ5連敗”の絶望後「あらきっぺ」に差した光とは 

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白鳥士郎

白鳥士郎Shiro Shiratori

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photograph byTakashi Araki

posted2022/05/24 17:02

「藤井聡太さんは本気で将棋を極めたいと考えているはず」“プロ棋士への道が終わった三段リーグ5連敗”の絶望後「あらきっぺ」に差した光とは<Number Web> photograph by Takashi Araki

三段リーグでの荒木隆と藤井聡太の対局

 14歳の、史上最年少四段が誕生したその日。同じ千駄ヶ谷の将棋会館では、荒木隆という三段が勝ち越し延長をかけて200手もの将棋を指し……そして敗れ、奨励会を去った。華やかな記者会見の、その裏で。

 もし、16回戦の結果が逆だったら? 藤井聡太が負け、荒木隆が勝っていたら?

 藤井ブームは起こらず、そして異色のベストセラーも生まれなかったかもしれない。たった1局の結果が変わるだけで、後の歴史は大きく変わっていただろう。

 奨励会とはそういう世界だ。

奨励会では芽が出ずとも、別の場所で独創性を

 あらきっぺは現在、『現代将棋を読み解く7つの理論』と『終盤戦のストラテジー』に続く、3作目となる本を準備中だという。

 プロを目指して将棋を指し続けた、26歳までの日々。

 その長い長い戦いの軌跡を長編小説のように語った男は、奨励会という世界では、遂に芽が出なかった。

 しかしそれは、あらきっぺが他と比べて劣っていたということを意味しない。

 奨励会という、他の誰かによって将棋との向き合い方を決められた世界では、その独創性を発揮しきれなかったというだけに過ぎない。将棋という広大な世界で、あらきっぺが次にどんな作品を書くのか。どんな奇抜な方法で未来の将棋と向き合おうとするのか。それは誰にもわからない。

 一つだけわかることがあるとしたら、それはきっと、まだ誰も試みたことのない、全く新しいもののはずだ。

 そして、あらきっぺは書き続けるのだろう。

 私たちが抱いている過去の価値観をアンインストールしてくれるような、全く新しい将棋の物語を。

<#1、#2からつづく>

#1から読む
“藤井聡太14歳と戦った男”が異色の将棋ベストセラー著者に 「敗戦に関する痛覚は完全にバグってます」AI研究に没頭する今とは

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