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「体罰パワハラはブラジルであり得ない」「野蛮なことが日本で…」“秀岳館問題”をサッカー王国から斬る《当地ではセクハラ多発》 

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沢田啓明

沢田啓明Hiroaki Sawada

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posted2022/05/02 17:02

「体罰パワハラはブラジルであり得ない」「野蛮なことが日本で…」“秀岳館問題”をサッカー王国から斬る《当地ではセクハラ多発》<Number Web> photograph by JMPA

リオ五輪では男子サッカーで金メダルを獲得したブラジル。ネイマールらは時に“問題児”ではあるが暴力的な側面はない

 日本の柔道における実態については、「長年、指導者や年長者による暴力が黙認されてきました」。さらにこう続ける。

「英国でもブラジルでも、選手に暴力を振るうのは犯罪と認識されている。指導者もそのことをよく理解しており、ある種の危機感、緊張感を持って指導しています。

 英国では、柔道の指導者講習で暴力、パワハラが犯罪であることを指摘するほかに『指導者と選手が2人きりになってはいけない』など、避けるべき事例を具体的に伝えています」

 そして、日本のスポーツ界で暴力事件が後を絶たない理由については、「指導者の勉強不足、能力不足が大きな原因だと思う」として、「指導者を対象とした勉強会、相談会、意見交換などを頻繁に行なうことが大切」と指摘する。

日本でパワハラ問題はたびたび起きている

 秀岳館高サッカー部の件に話を戻すと、日本の高校サッカー部ではこれまでにも同様の事例が多々あった(2013年にスポーツライターの加部究さんが上梓した「それでも『美談』になる高校サッカーの非常識」(カンゼン)を読むと、日本の高校サッカー部における体罰、しごき、イジメの実例がこれでもか、これでもかと出てくる)。

 Jリーグでも、2019年に湘南ベルマーレ・曺貴裁監督、2021年には東京ヴェルディ・永井秀樹監督、サガン鳥栖・金明輝監督(いずれも当時)の行為がパワハラと認定され、日本サッカー協会がライセンスの一時停止、降級などの処罰を下している。

 しかし、日本のスポーツ界でこのような問題が起きているのはフットボールに限らない。相撲、柔道、レスリング、野球、バレーボール、バスケットボールなどでも同様の事例が少なからず発生し、自殺者を含む犠牲者を出してきた。加害者に厳しい処分が下されたこともあるが、この問題が完全に解決されたとは言い難い。

 自分の子供が部活動などでスポーツを始める場合、子供の心身の安全を守るため、保護者は「ひょっとしたら、指導者や先輩の中には君たちに暴力を振るったりひどいことを言う人がいるかもしれない。それは全く間違ったことなので、そんなことが起きたらすぐにお父さんかお母さんに知らせなさい」と予め伝えておく必要がありそうだ。 

 さらに言えば、これはスポーツに限ったことではない。日本の教育現場での体罰、暴言や生徒間でのイジメ、会社でのパワハラやセクハラなどが頻発しているのは、日本人なら誰でも知っている。

 日本人は、遵法精神が高い国民だ。であれば、これらの行為がなくならないのは、「違法行為であり、純然たる犯罪」と明確に意識していない人がいるからではないか。

 そして、「自分も殴られて成長したから、その指導法は間違っていない」と考えていたり、指導者としての能力不足から暴力なりパワハラを伴わない指導ができていない可能性がある。また加害者は“被害者が組織の上層部や警察などに届け出ない”と高をくくっているのではないか。

 筆者がブラジルのクラブのアカデミーやトップチームの練習をを取材していて、いつも感じることがある。

【次ページ】 ウォーミングアップからユルい空気が一転

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