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「体罰パワハラはブラジルであり得ない」「野蛮なことが日本で…」“秀岳館問題”をサッカー王国から斬る《当地ではセクハラ多発》 

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沢田啓明

沢田啓明Hiroaki Sawada

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posted2022/05/02 17:02

「体罰パワハラはブラジルであり得ない」「野蛮なことが日本で…」“秀岳館問題”をサッカー王国から斬る《当地ではセクハラ多発》<Number Web> photograph by JMPA

リオ五輪では男子サッカーで金メダルを獲得したブラジル。ネイマールらは時に“問題児”ではあるが暴力的な側面はない

 ブラジルでは指導者がスタッフ、選手らとの間でトラブルを起こしたら、解雇されかねない。日本では部活動の選手は一部員、一生徒でしかないが、ブラジルのアカデミーの選手はクラブが手間暇をかけてスカウトし、プロのスタッフが育成している大切な“商品”だ(選手には、月謝などの負担はない。多くの場合、クラブが用具も提供する)。

 従って、アカデミーでは指導者、スタッフと選手は対等に近い関係にある。日本のような一方的な上下関係にはならない。

 ブラジルのアカデミーは、日本の部活動のように閉鎖された組織ではない。指導者が日本の一部の強豪校の監督のようなアンタッチャブルな立場を手に入れることは、ほぼ不可能だ。

 これらのことが、ブラジルで指導者や年長者による体罰、パワハラなどの問題を起こりにくくしているのではないか。

暴力、パワハラはほぼないけどセクハラが……

 知り合いのブラジル人記者に秀岳館高校や過去の部活動のトラブルの一端を話したところ、「日本のような先進国で、そんな野蛮なことが起きているのか」と驚かれた。

 ただし、この記者は「ブラジルのフットボールには別の問題がある」と言う。

「暴力、パワハラはほとんどないが、セクハラはある。男性の指導者が女子選手にセクハラを働くケースもあるが、選手の数が男子の方が圧倒的に多いこともあり、男性の指導者が男子選手にセクハラをしたケースが報告されている」

 欧米のスポーツ界では、指導者の選手へのセクハラが多発している。ブラジルも似たような状況にあるということなのだろう。

柔道ブラジル代表に携わる藤井裕子さんに聞いてみた

 それでは、ブラジルのフットボール以外のスポーツではどうなのか。

 リオ在住で、柔道ブラジル男子代表のコーディネーターを務める藤井裕子さんに話を聞いた。

 藤井さんは愛知県出身で、吉田秀彦、谷本歩実ら五輪金メダリストを輩出した大石道場で5歳のときに柔道を始め、中学、高校、大学、大学院で選手として活躍。24歳で引退して英国バース大学へ留学し、同大柔道部での指導を経て、英国柔道女子代表コーチとして2012年ロンドン五輪を経験。2013年からブラジルに住み、2016年リオ五輪でブラジル男女代表のコーチを、2020年東京五輪(開催は2021年)でブラジル柔道男子代表の監督を務めた。

「ブラジルの柔道でも、暴力、パワハラは聞いたことがありません。ただし、セクハラに関しては、男性の指導者が女子選手、男子選手に行なったケースが報告されています」

 これは、フットボールと同様だ。

【次ページ】 「殴られて成長したから…」という先入観

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