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「体罰パワハラはブラジルであり得ない」「野蛮なことが日本で…」“秀岳館問題”をサッカー王国から斬る《当地ではセクハラ多発》
posted2022/05/02 17:02
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph by
JMPA
1986年末にサンパウロへ渡って以来、当初はいちファンとして、その後はジャーナリストとして、ブラジルのフットボールを眺めてきた。
この間、育成年代やプロを問わず、指導者や年長者から選手への体罰・パワハラ・しごきなどの事実を目にしたり、噂を聞いたり、あるいは報道に接したことは一度もない。
現在、日本では秀岳館高校サッカー部のコーチによる部員への暴行事件が世間を賑わしている。
日本よりはるかにフットボール人口が多いブラジルで、なぜ同様の問題が全く(あるいはほとんど)起こらないのか。
いくつかの理由が考えられる。
指導者だろうが先輩だろうが“暴行は犯罪”
ブラジルは、欧米と同様、個人主義の国であり、個人の権利を重んじ、また各々が主張する意識が浸透している。良くも悪くも、集団の利益や体面のために個人の利益や権利が損なわれることを甘受しない(これに対して日本では「自分の権利を主張するのは身勝手、わがまま」と考える傾向があるのではないか)。
指導者であろうが先輩であろうが、選手を殴ったり蹴ったりしたら――それは公共の場で他人に暴行を加えるのと何ら変わらない、れっきとした犯罪と認識されている。また被害者が警察へ届け出たら、加害者はまず間違いなく逮捕される。そして、加害者は職業、社会的な立場などを失いかねない。
日本であれば、飲酒運転をして警察に逮捕されるような感覚だろう。すべてを失うことがわかっているので、まともな社会人なら絶対にやらない。暴言、パワハラもしかりである。
また、ブラジルの学校には部活動はない(世界的に見れば、日本のように教育機関で部活動が行なわれている国の方が珍しい)。プロを目指す育成年代の選手はクラブのアカデミーに所属し、専任のスタッフから指導なりケアを受ける。
日本の部活動では、指導者や先輩との折り合いが悪くて退部したらプレーする場を失うのが一般的だろう。しかし、ブラジルでは何か問題があってクラブを退団しても、別のクラブに入ればいい。
指導者、スタッフと対等に近い関係
日本でもブラジルでも、指導者が成果を問われるのは変わらない。ただし、ブラジルの育成年代の指導者は、勝つことよりもプロ選手を育成することを重視する。それゆえ、日本のような勝利至上主義にはなりにくい。