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JRA賞の大疑問「マルシュロレーヌは本当に特別賞に値しないのか?」史上初の日本馬BCディスタフ制覇は“63年越しの偉業”だった
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byGetty Images
posted2022/01/12 17:05
ブリーダーズカップディスタフにて日本馬として初優勝を果たしたマルシュロレーヌ
「アメリカのダートのGIを勝てる日本馬は永久に現れないかも」
2008年にカジノドライヴがGIIのピーターパンステークスで日本馬初のアメリカダート重賞制覇を達成する。これは日本馬によるアメリカのダートでの初勝利でもあった(同馬は米国産だったが)。
2016年には武豊とラニのコンビがアメリカ三冠のすべてに参戦し、ベルモントステークスでは3着と健闘。
「凱旋門賞ではそう遠くないうちに日本馬が勝つでしょうが、アメリカのダートのGIを勝てる日本馬は永久に現れないかもしれないですね」
私は、何人ものホースマンとそんな話をしていた。
保田隆芳は、ニュース映画でアメリカの騎手のフォームを見て、「これからは自分たちもスピード競馬に適した乗り方をしないと世界に取り残される」と危機感を抱き、ハクチカラのアメリカ遠征への同行を志願した。岡部幸雄は「アメリカの西海岸で乗っていることが自分のキャリアの支えになっている」と言った。武豊は、夏場や年末年始、現地で騎乗馬を探す自費でのアメリカ遠征を繰り返していた。
日本のレジェンドたちにとっても、アメリカ競馬は長らく、見上げる高みにあったのだ。
63年越しの夢…「北米の牙城」を崩したマルシュロレーヌ
そのアメリカのメイントラックであるダートのGI中のGIであるBC、それも、1984年の創設当初からあったBCディスタフを、日本で生まれ育ったマルシュロレーヌが勝った。ハクチカラが第一歩を踏みしめてから63年後に達成された、歴史的快挙であった。
だからといって、その2時間前に芝2200mのBCフィリー&メアターフで日本馬によるBC初制覇を果たしたラヴズオンリーユー(牝6歳、父ディープインパクト、栗東・矢作厩舎)の功績が色あせることはない。が、かねてよりヨーロッパの馬が勝っていたこのレースは、もともと芝をメイントラックとする外国の馬を呼ぶための舞台とも言えた。それに対して、マルシュロレーヌが打ち壊したのは、まさに「北米の牙城」だった。
マルシュロレーヌは昨年、地方交流重賞を3勝しているが、BCディスタフ以外にはGIを勝っていない。年間を通しての印象が薄かったため、ダート部門でのトータルの評価が低くなったのだろうが、そういう馬のための特別賞ではないのか。
同じように感じている人が多かった証拠に、年度代表馬が発表されたあと、ツイッターのトレンドワードの上位に「マルシュロレーヌ」が入っていた。
願わくは、アメリカの年度代表表彰であるエクリプス賞にノミネートされてほしい。もしそうなったら、「聞く力」を標榜する岸田内閣ではないが、あらためて特別賞に選び直してもいいのではないか、とも思ってしまう。それだけの大仕事を、マルシュロレーヌはやってのけたのだから。
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