セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
“笑わない男”モウリーニョが人前でにこやかにピッツァを…世界を敵に回した“スペシャルワン”にローマで何が起きたのか
posted2021/10/16 17:00
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
Getty Images
モウリーニョが笑っている。
ASローマの新監督として11年ぶりにセリエAへ帰還した“スペシャルワン”は、人が変わったように快活そのものだ。
指導者キャリア1000試合目となった3節サッスオーロ戦では、91分にFWエルシャーラウィが決めた劇的決勝弾に興奮し、喜ぶ選手たち目がけて約40mを激走。「サッカーを夢見る12歳の少年みたいに走ったよ」。全力疾走する58歳なんてそうそうお目にかかれない。
開幕から5勝2敗の4位と好調を維持する一方、7連勝のナポリ監督スパレッティには「まさか全試合勝つつもりか?」とTV中継越しに軽妙なジョークをぶつけて笑いを誘う一幕も。
誰もがその変貌ぶりに驚かざるをえない。
インテル時代のモウリーニョは、決して笑わない男だったからだ。
煽り、挑発は日常茶飯事だったインテル時代
08年の夏、イタリアに上陸してきたモウリーニョは何者も寄せ付けない、孤高の冷徹指揮官だった。メディアを利用しながら毒を吐き、対戦相手を煽り、挑発した。
「ゼロ・ティートゥリ」という言葉がある。
インテル時代の1年目、09年春の記者会見で、実力ある選手を揃えながらタイトルに手が届かないライバルのローマを揶揄するため、モウリーニョが発したものだ。正しくは「無冠(ゼロ・ティートロ)」と発音するはずが、巻き舌のポルトガル語訛りがかえって挑発的に聞こえたため、インテリスタを中心にカルト的人気を博し、その後、煽り文句として定番化した。
ローマだけでなく、ユベントスもミランも、自分のチーム以外の世界をすべて敵に回した。それが、結果至上主義者モウリーニョの戦い方であり、サッカー哲学そのものだった。
365日24時間、隙は見せない。すべては勝利のために自重自制。遠征から戻る深夜の高速特急車内でにこやかにピッツァを頬張る姿を人目に晒すなど、絶対にありえないことだった。
00年に母国のベンフィカで始めた指導者キャリアには、03年のポルトガルリーグ制覇とUEFA杯優勝を皮切りに、次々とタイトルが積み重なっていった。