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「私が紗理那のチャンスを潰した」セッター宮下遥が今も悔やむ“次世代エース”古賀紗理那の落選…29歳で現役引退の本音も「パリ五輪がんばって」
posted2024/07/26 11:05
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
Asami Enomoto
引退会見で問われる常套句とも言うべき質問がある。
「現役時代を振り返って、一番印象深い試合は?」
木村沙織や江畑幸子、荒木絵里香は、銅メダルを獲得したロンドン五輪の大きな分岐点となった準々決勝・中国戦をそろって挙げた。
では、宮下遥はどうか。2024年5月16日に行われた引退会見で、こう答えた。
「リオの最終予選のタイ戦と、2013年(2013/14シーズン)に初めて準優勝したVリーグのセミファイナルの久光戦です」
一見すれば結びつかない2つの試合は、宮下の中で切っても切れない、こびりつくほどの奇縁でつながっていた。
「手が震えて止まらなかった」
2016年5月18日のリオ五輪最終予選、タイ戦。前日に韓国に敗れていた日本にとって、勝てば五輪出場に大きく近づくが、負ければ窮地に追い込まれる大一番とも言うべき試合だった。
先行したのはタイだった。ユース年代から磨き上げてきた完璧なコンビネーションバレーで日本を圧倒し、第1セットを先取。日本は第2セットを取り返したが、第3セットも競り負けて後がなくなった。この時、セッターの宮下は不安に苛まれていた。
「この状況からひっくり返せるパワーがあるのか。正直、自信がないし、怖かった。負けるかもしれない、と思ったら手が震えて止まりませんでした」
なんとか第4セットを取り返すも、第5セットも6対12とタイに大きなリードを許す展開。15点先取のファイナルセットで6点のビハインドは、よほどのことがなければ引っくり返すことなどできない。
崖っぷちまで押し切られた状況で、その“よほどのこと”が生じた。