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「あいつはすぐにムキになるんです(笑)」恩師・両角速監督と先輩・佐藤悠基が語った大迫傑の“変わらない本質”
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Number編集部Sports Graphic Number
photograph byGetty Images
posted2021/10/17 06:00
現役ラストレースとなった東京五輪男子マラソンでも、負けん気の強さが随所ににじみ出ていた
かつての大迫は「とても焦っているように見えた」
――高校時代、大迫さんから「エースとしての苦悩」は感じられましたか?
両角 あまり感じませんでした。彼にはエースとしての自覚がどの程度あったのかな……と思う。エースという言葉があるとしたら、彼の場合は後から付いてきたので。自分の求めているものを追求する姿、それが周りからはエースとして見えた。チームとして強い時期だったので、彼がエースというポジションに置かれたと言えます。エースとして「チームのために身を削ってでもやるんだ」というスタンスはそれほど感じられませんでした。ただ私には、高校でも今教えている大学でも、駅伝という一つの材料をもとにどう教育をしていくのかというテーマがあるので、支えてくれる人や仲間、チームなど、周りのことをきちんと考えていこうと教えていかなくてはなりません。彼には、それは煩わしかったのではないでしょうか。
傑も周りを見て、「自分も理解しないといけない」と頭ではわかっていたでしょう。でも、今回の引退もそうですが、当時の大迫傑を見ているととても焦っているように見えたんです。「周りのことを気遣っている時間はないんだ、もっとストレートに自分を高めていくことにまっしぐらになりたいんだ」というのがすごくありました。
佐藤 僕の場合は、エースとしての苦悩はあまり感じたことがないですね。駅伝であれば、自分の走りをしっかりやればチームのプラスになりますし。普段の練習でも、やることをやっていれば周りも付いてきてくれるんじゃないかなと思っていたので、極力自分自身のことに集中するように努めていました。口下手なので何かを言葉にするのは難しいですし、学生時代は「エース」について深く考えていませんでしたね。
実業団に進んでも、自分のスタンスは特に変える必要はないのかな、と思ってずっとやってきました。若い頃は何も考えずにやってきたというのが正直なところで、この歳になっていろんなことを経験させてもらって、ようやく深く考えるようになりました。対して、大迫選手は若い頃から自分と周囲の関係について考えることができていたんだな、とこの本を読んで感じます。〈後編に続く〉