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「観客は僕を驚かせた」“なぜかファン人気がない王者”ジョコビッチが決勝のベンチで涙した理由〈全米OP〉 

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秋山英宏

秋山英宏Hidehiro Akiyama

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photograph byHiromasa Mano

posted2021/09/14 17:05

「観客は僕を驚かせた」“なぜかファン人気がない王者”ジョコビッチが決勝のベンチで涙した理由〈全米OP〉<Number Web> photograph by Hiromasa Mano

全米OP決勝でメドベージェフに敗れ、ジョコビッチは史上3人目となる年間グランドスラムを逃した

 ジョコビッチはこの全米で、雲の上から降りてきた。プレッシャーを制圧できず、応援に涙する普通の選手として大会を去ったが、このことがかえってファンを増やすかもしれない。メドベージェフら、次の世代の台頭はあっても、ファンの後押しを得たジョコビッチは今後も年に数個の四大大会タイトルを積み重ねるだろう。来年再び年間グランドスラムに挑み、達成する可能性もなくはない。これがシナリオAだ。

 偉業達成を逃し、ファンの理解も得て心穏やかにフェードアウト――そんな最悪のシナリオBは、まずありえない。これまで何度も死の淵から蘇った選手である。ついこの間、全仏の決勝でも、2セットダウンからの逆転でステファノス・チチパスを破った。「セットカウント0-2」からがジョコビッチの本領なのだ。

 何度も引用しているので気が引けるが、ジョコビッチが逆転劇を演じるたびに、ある言葉を思い出す。

「ジョコビッチは2度殺さなくては勝てない」

 錦織圭のフィジオ(トレーナー)を長くつとめた中尾公一氏の言葉だ。致命傷を与えたと思えるほどラリーで圧倒し、スコアを離しても、必ず生き返ってくるという意味だ。錦織と6年間行動を共にし、ジョコビッチに喫した17連敗の大半を間近で見た人の言葉である。

 窮地でこそ本領、はキャリア全体にも当てはまる。

2人の王者を抜き去る「21個目の四大大会タイトル」へ

 最大のピンチは、16年に生涯グランドスラム(年をまたいでの四大大会全制覇)を達成したあとにやってきた。ジョコビッチは達成感でモチベーションを失った。当時、コーチの一人だったボリス・ベッカーは「成績が落ちた原因は練習不足」と怒り、陣営を離れた。同じ頃、ジョコビッチは怪しげな人物をコーチとして陣営に招き、精神世界への接近が取り沙汰された。翌17年には、あろうことか、「父」とも慕うマリアン・バイダコーチもチームを離れた。それでもジョコビッチは終わらなかった。

 全米の痛手からもやがて蘇るだろう。達成は不可能と思えるような目標を立て、そこに挑むはずだ。

 まずはフェデラー、ナダルを抜き去る21個目の四大大会タイトルだ。もう少し記録を伸ばしたうえで、最後の目標は東京で取り損なった五輪のメダルか。3年後のパリ五輪は37歳で迎えることになる。ここでゴールデンスラム? 相当難しいが、あり得ないことではない。

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