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往復ビンタ10発以上「きつい振りすんな!」竹田高剣道部主将“死亡事件”から12年…遺族が明かす“暴力指導の壮絶さ”

posted2021/09/15 11:04

 
往復ビンタ10発以上「きつい振りすんな!」竹田高剣道部主将“死亡事件”から12年…遺族が明かす“暴力指導の壮絶さ”<Number Web> photograph by 家族提供

大分県立竹田高で起きた剣道部主将熱中症死亡事故。今夏、十三回忌を迎えた両親はこれまで、司法の場で指導者の責任を問い続けてきた

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中小路徹

中小路徹Nakakoji Toru

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「おにぎり、1個? 2個?」

「1個でいいや。部活きついと食べられんけん」

 その朝、弁当について母とそんな会話を交わした長男は、生きて帰ってこなかった。大分県立竹田高で起きた剣道部主将熱中症死亡事故。今夏、十三回忌を迎えた両親はこれまで、司法の場で指導者の責任を問い続けてきた。その思いは、スポーツ指導での暴力への厳罰化という形の抑止につながっている。

 2009年8月22日。工藤剣太さん(当時17)が死亡した経緯から振り返る。ここまで描写できるのは、両親が部員たちの協力を得て、証言を聞き集めたからだ。当初、大分県の教育委員会と学校関係者が示した報告書は、ごく簡単な時系列に過ぎなかった。部の後輩でもあり、事の一部始終を見ていた弟が「事実と違う!」と怒りをあらわにしたことから真実追及がなされたことを、まず確認しておきたい。

水分補給は少なめ、嘔吐する生徒に竹刀で叩く

 練習は午前9時から始まった。剣道場には顧問と副顧問がいた。基本練習をし、午前10時ごろに給水。各自、コップ2杯程度の水分を取った。この部では日頃から、「次の練習に響かないよう水分摂取は少なめに」という誤った認識が植え付けられていた。

 午前10時半ごろから打ち込みが始まり、トイレに嘔吐しにいく部員が現れ始めた。吐き気は中度の熱中症の症状の一つだ。しかし、顧問は戻ってきた部員を案ずるどころか、腰を竹刀で3発ほどたたいた。

 主将である剣太さんへの指導も苛烈さを増した。「俺の言ったポイントが全くできていない!」「気迫がない!」と、顧問は声を荒らげた。面を持ち上げ、むき出しになった首をたたく場面もあった。

 その後、剣太さんは一人、練習を続けさせられる。顧問は、個々の打ち込みが合格かどうか、部員全員の挙手で決めさせる方式を採った。剣太さんを合格とした部員はいた。しかし、顧問から「どこがいいんだ!」と責められ、誰も挙手できなくなった。

「俺、頑張るけん、みんな手を挙げてな!」と自らを鼓舞した剣太さんだったが、徐々にふらつく。繰り返し壁に当たるようになり、ついにひざまずいた。そして、「もう無理です」と言った。

ふらつく姿に「芝居やろうが! きつい振りすんな!」

 剣太さんは部員たちに起こされても、違う方向を向いて動かなかった。竹刀を払われても拾おうとせず、持っているかのようなしぐさをした。重度の熱中症を疑うべき異常行動だ。ところが、顧問は「芝居やろうが! きつい振りすんな!」と怒鳴った。剣太さんは薄れる意識の中で命の危険を感じていたのだろう。面や道着を外そうとした。「何しよるんか」という顧問の問いかけに「本能です!」と答え、前に倒れた。

【次ページ】 「そういうのは熱中症じゃねえ! 演技じゃろうが!」」

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