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往復ビンタ10発以上「きつい振りすんな!」竹田高剣道部主将“死亡事件”から12年…遺族が明かす“暴力指導の壮絶さ” 

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中小路徹

中小路徹Nakakoji Toru

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photograph by家族提供

posted2021/09/15 11:04

往復ビンタ10発以上「きつい振りすんな!」竹田高剣道部主将“死亡事件”から12年…遺族が明かす“暴力指導の壮絶さ”<Number Web> photograph by 家族提供

大分県立竹田高で起きた剣道部主将熱中症死亡事故。今夏、十三回忌を迎えた両親はこれまで、司法の場で指導者の責任を問い続けてきた

 筆者はこれまで、部活動の事故で子どもを亡くしたり、後遺症が残る大けがをしたりしたケースを多く取材してきたが、親が損害賠償請求の裁判に出るのは、「お金が欲しいからではない」ことを強調しておく。

 裁判に訴えるのは、再発防止を心から願うからだ。子どもの死を無駄にしないでほしい。そのためには、誠意ある謝罪とともに、何があったのかという客観的事実と原因を明らかにし、その責任が誰に、またはどの組織にあるのかをはっきりさせる必要がある。

 当初は被害者側も学校側の誠意に期待する。ところが、学校や教委は事実を隠したがり、責任逃れに終始する。これでは再発防止策など立てるべくもない。裁判は最後の手段なのだ。

「個人の賠償責任を認める」画期的な判決を勝ち取った

 大分地裁での損害賠償請求訴訟では2013年、顧問の過失が認められた。ただ、賠償金の支払いそのものは顧問ではなく、大分県などに命じられた。公務員が職務上、違法に他人に損害を与えた時は、「国や自治体が賠償責任を負う」とする国家賠償法の規定に基づいたためだ。

 両親はこれに納得しなかった。国家賠償法は本来、消防士や警察官などが危険な職務で臆することがないようにするためなど、限定的に適用されるべきであって、「暴力教員を自治体が守るのはおかしい。部活動の暴力的な指導の抑止につなげるためにも顧問個人が支払うべきだ」と、福岡高裁に控訴した。

 この控訴は退けられ、最高裁も上告を退けた。しかし、あきらめなかった。

 今度は、賠償金を顧問に負担させる「求償権」を大分県が行使するべきだと、県の在住者として住民訴訟を起こしたのだ。この裁判では、2016年に大分地裁で、2017年には福岡高裁で求償権の行使を命じる判決が出て、最終的に顧問は賠償金を払った。両親の代理人弁護士が「学校の事故に関し、公務員個人の賠償責任を認めた判決は高裁レベルでは初」と話したように、部活動での誤った指導について、司法の厳しい判断の流れをつくる画期的な判決でもあった。

 ただ、顧問の刑事責任は問われずにいる。業務上過失致死などでの告訴は、2012年に大分地検が不起訴に。再捜査を申し立てたが、2019年に最高検が不受理とした。2020年には保護責任者遺棄致死の容疑で告訴したが、こちらも不起訴に。両親は検察審査会に審査を申し立てたが、今年4月にこれも「不起訴相当」となった。

“地獄絵図”をあえて生々しく語ってきた理由

 決定が下るたび、2人は「おはよう」も言えないほど落ち込む。それでも刑事責任を問い続けるのは、スポーツの現場で今も暴力的指導が根絶されない現状を何とかしたいと思うからだ。

【次ページ】 13年目の夏、初めて竹田高校で語った“剣太さんの死”

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