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往復ビンタ10発以上「きつい振りすんな!」竹田高剣道部主将“死亡事件”から12年…遺族が明かす“暴力指導の壮絶さ” 

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中小路徹

中小路徹Nakakoji Toru

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photograph by家族提供

posted2021/09/15 11:04

往復ビンタ10発以上「きつい振りすんな!」竹田高剣道部主将“死亡事件”から12年…遺族が明かす“暴力指導の壮絶さ”<Number Web> photograph by 家族提供

大分県立竹田高で起きた剣道部主将熱中症死亡事故。今夏、十三回忌を迎えた両親はこれまで、司法の場で指導者の責任を問い続けてきた

「指導者が思わず拳を振り上げた時、『刑事罰が与えられるかもしれない』ということが頭をよぎって拳を下ろせれば、暴力の抑止につながると考えるのです。私たちは勝手に、全国の子どもたちを背負っている気持ちです。これ以上、剣太のような子どもと、私たちと同じように苦しむ家族を出したくないからです」と奈美さんは言う。

 2人の活動は訴訟の場にとどまらない。支援者の協力も得て、これまで40回以上、子どもの重大事故の再発防止について、国内各地で勉強会や講演を開いてきた。これには自民党の勉強会も含まれている。

 そうした場で奈美さんはあえて、“地獄絵図”を生々しく語ってきた。司法解剖が終わり、警察署で剣太さんを引き取った時、遺体を包んだ袋を開けると、剣太さんの顔はどす黒く、強い腐敗臭を放っていたこと。火葬場で弟が泣いて棺にしがみつき、指を一本一本引きはがさないと、最後の別れができなかったこと。

「スポーツの死亡事故の背後にある壮絶さを知ってもらい、自分の身に置き換え、絶対に起こしてはいけないと思ってほしいのです」

13年目の夏、初めて竹田高校で語った“剣太さんの死”

 この夏、いくつかの変化があった。

 十三回忌を機に、両親は仏壇の横に置いていた剣太さんの竹刀や道着をしまった。「私たちもだんだん剣太に近づいている。これまで剣太のことに一生懸命だったんですが、剣太の弟や妹に尽くしてから、あの子のところに行こうかなと」と奈美さん。

 また、2人が竹田高に出向き、教職員や在校生に剣太さんの死の経緯や思いを語る場が、初めて設けられた。学校側から「事件の記憶が薄れているので」と打診があったそうだ。奈美さんは「大きな前進」と話す。

「びっくりしました。竹田高が『工藤を呼ぶ』ということは、相当な覚悟です。大分県で私たちの話を聞こうという学校はありませんでしたから。生徒たちには、剣太がいかにこの学校を愛していたかということや、『自分が窮地に陥った時には、逃げる勇気もある』ということを伝えました」 

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