炎の一筆入魂BACK NUMBER
リスクより使命…カープ大瀬良大地のエースの心意気、シーズン中では異例の追い込みで復調のきっかけを掴む
posted2021/07/26 11:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
JIJI PHOTO
緑の芝の上に倒れこみ、真っ青に広がる空を見つめながら、何を思ったのだろう。
前半戦最中の6月下旬、マツダスタジアムでの試合前練習で、外野の芝に仰向けになって倒れ込む大瀬良大地の姿があった。
開幕から3戦2勝、防御率0.89という好スタートを切りながら、4月15日に右ふくらはぎを痛めて戦列を離れた。25日間のリハビリを経て、二軍での実戦登板わずか1試合で一軍に戻ってきた。
首脳陣の中には、状態を万全に近づけるため、もう1試合調整登板を経て昇格という声もあった。だが、苦戦続きのチーム事情に、「行けるか?」と聞かれて、NOと言えるタイプじゃない。エースとしての責任感が最短での復帰を決断させた。
だが、勝ちながら状態を上げていけるほど甘くはなかった。復帰戦となった5月18日巨人戦は、6回3失点。何より求めていた勝利を手にすることができず、チームも敗れた。
その後も、勝てない。結果だけでなく、内容も伴わなかった。開幕直後の姿とは別人のようだった。
投球の土台となる右ふくらはぎの痛みは、フォーム自体に影響が出る。今年採り入れた体をムチのようにしならせて投げるフォームでは、躍動感の欠如として現れた。加えて急ピッチで復帰したことで、別の場所にも負担が生じる。復帰後の投球は、何かしらの不安を抱えているように映った。
監督やコーチ、チームメートが求めるものは、イニングを多く投げることではない。大瀬良は広島のエース。コンディション不良であっても、一軍にいる限り、ただ勝つことだけが求められる。
感覚と思いが体と合致しない中で、最善のパフォーマンスを探る登板が続いた。
倒れ込むほどの調整強度
当時、逃げ出したい気持ちはゼロではなかったかもしれない。今季は球宴終了後、東京五輪のため約3週間の中断期間が設けられている。後半戦から巻き返すことだけを考えれば、前半戦残り数試合の登板を回避し、調整期間を延ばすこともできた。当時の状態を見れば、それが最善策だと思えた。
ただ、大瀬良はそんなタイプじゃない。一軍のローテーションで投げ続けることを選んだ。
1週間に1度、巡ってくる登板に向けて調整するのではなく、五輪明けから始まる後半戦も見据えた。もしかしたら照準は後者に合わせていたのかも知れない。そう感じさせるほど、登板間の調整強度が明らかに上がった。