炎の一筆入魂BACK NUMBER
リスクより使命…カープ大瀬良大地のエースの心意気、シーズン中では異例の追い込みで復調のきっかけを掴む
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PHOTO
posted2021/07/26 11:00
前半戦を終え、11登板3勝3敗。7月12日の勝利は3カ月ぶりの勝ち星だった
“ミニキャンプ”という枠すら超えていたのは、芝生に倒れ込む大瀬良の姿で分かった。自主トレやキャンプ期間であっても、そんな姿を見たことがなかった。たとえばサーキットトレーニングでは走り終えた選手たちは次々に座り込み、終盤には倒れ込む選手もいる。だが、大瀬良は走り終えても、呼吸を整えながら歩き続けていた。14年、1年目の合同自主トレで座り込まなかった参加選手は、ドラフト1位のルーキーとベテラン右腕の永川勝浩(現投手コーチ)だったと記憶している。
少なくとも記者が知る限り、練習を終えて倒れ込む姿をあの日、初めて見た。しかもそれは、シーズン前ではなく、公式戦登板間の調整で、だ。
登板間にかける負担は大きなリスクも伴う。それも覚悟の上だった。当然、目の前の登板を軽視していたわけではない。登板日が近づけば調整法も従来のものに近づけた。
大胆な調整の転換は勝つことが大前提であり、調整の手応えも登板内容からしか得られない。穏やかな表情の中には、野心と闘争心を隠していた。
前半戦最後の登板となった7月12日の中日戦で7回を2失点に抑えて、4月9日巨人戦以来の3勝目を手にした。「もう勝つことなく、キャリアを終えることになるのかな」。そんな考えが頭をよぎることもあったという。先発登板7試合連続で勝ち星がつかなかったのは、プロでは自己最長だった。
前半戦最後の登板を終え、球宴期間は身体を休め、球宴後の調整期間から再び追い込む……のかと思っていたら「明日からです。もう始まります。休んでいられません」と言い切った。94日ぶりの勝利にも、余韻に浸ることなく、約1カ月後に控える後半戦をにらんだ。
言葉通り、翌日から“一人キャンプイン”状態。ほぼ別メニューで調整を行っている。投球動作のように左足を大きく踏み出し、下半身の力をしっかり上半身に伝える動きを繰り返す。基礎練習の反復。大粒の汗を流し、歯を食いしばる。
エースの背中
エースとは、チームを勝たせる使命がある。選ばれた者の宿命だろう。だが、ただ勝ち星が多い投手が、そう呼ばれるわけではない。
大瀬良は広島のエースでいなければいけない。離脱中、復帰を待望する投手がいたように、苦しむチームには大黒柱として支える存在が必要だ。本人は「あまり見せたくない」という足掻く姿も、若手には生きた教材となる。エースにも、いろんなエース像があっていい。
広島投手陣はみな、背番号14の背中を追っている。だからこそ、後半戦は勝たなければいけない。誰よりもそれが分かっているからこそ、歯を食いしばりながら青空を見つめたのだと思う。
東京でスポーツの祭典が行われている今夏、広島でも、笑顔で空を見上げる日を信じて戦っているアスリートがいる。