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大坂なおみ、錦織圭は出場も…テニスのトップ選手たちが東京五輪を回避する「コロナだけじゃない」2つの理由
text by
内田暁Akatsuki Uchida
photograph byAFLO
posted2021/07/21 11:03
東京五輪出場を表明している大坂なおみ選手
とりわけ、上昇気流をつかみたい若手、あるいはキャリアの終焉に近づきつつあるベテランほど、そのような思いは強いだろう。オリンピックではランキングポイントが付かないことを思えば、なおのこと。
21歳を迎えたばかりのセバスチャン・コルダは、「父とエージェント、そしてアンドレ・アガシとも話し合い、今の自分にとって最良なのは、北米シリーズに集中することだという結論に至った」と言った。現在47位のコルダは、元世界2位のペトル・コルダを父に持ち、今季は元世界1位のアガシをアドバイザーにつけて急成長を遂げている。オリンピックを飛ばしてでも、この夏にさらなるランキングアップを狙うのは、テニスツアーの文脈からすれば妥当な判断だ。
なぜ東京五輪は「ランキングポイント」が発生しないのか
かくも選手にとって重要なランキングだが、それを左右するランキングポイントがオリンピックで得られるか否かの背景には、国際テニス連盟(ITF)と、プロツアーの運営団体であるATP(男子)およびWTA(女子)との綱引きがある。
オリンピックで主導権を握るITFは、なるべくトップ選手に参戦してほしい。だが、オリンピックと同時期、もしくはその直前直後に開催されるATPやWTA主催のツアー大会にしてみれば、オリンピックのせいでスター選手の参戦が減り、結果的に収入も減少する。そこで達した合意点が、ITFがATPとWTAに損失分を払い、その見返りとして、ATPとWTAはオリンピックにランキングポイントを与えるという取り決めだ。
だが、その持ちつ持たれつの関係性も、2012年のロンドン大会を最後に終了。その理由は、選手間でオリンピックのプライオリティが上がり、対価を払わずともトッププロの参戦が見込めるとITFが考えたから……というのが、WTA関係者から聞いた話ではあるが、真偽は定かではない。
いずれにしても、ランキングポイントが無いことは、選手の判断に影響を及ぼしているのは確実だろう。その点に関しては錦織圭も、「ランキングを上げるためには、オリンピックはなかなか優先できない」と、欠場選手たちに理解を示していた。
世界1位ジョコビッチは五輪出場を決断
プロテニス界におけるランキングポイントの価値を思うとき、思い出されるのが、ノバク・ジョコビッチが口にした「我々にとって、ポイントは通貨だ」の文言である。ITFとATP/WTA間で金銭とポイントがトレードされたことを思えば、まさに言い得て妙の表現だ。