野球クロスロードBACK NUMBER
<失われたセンバツ>磐城高のあの“号泣監督”が県高野連の理事長になった「全球児は甲子園を絶対に目指すべきです」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph bySankei Shimbun
posted2021/05/14 17:10
昨年夏の甲子園での交流試合。前監督の木村保(現福島県高野連理事)が試合前の守備練習でノックを行った。ノッカーとしての参加が認められており、涙をぬぐいながらバットを振った
裾野拡大のひとつとして、木村が磐城の監督時代に導入していた学童野球への指導を推奨しようと思案している。「少子化が進むからこそ野球振興、普及活動が重要」と、野球部員を地域の少年野球チームへ派遣し、指導する。
戦力の底上げの面では、代表校の強化を高野連としてバックアップする。夏の甲子園やセンバツ、春と秋の東北大会に出場するチームを対象に、短い期間ながらも「できることがあるのではないか」とプランを練っている。その実現のためには、強化部のテコ入れも必要となってくる。現在は、野球のみならず様々なジャンルで活躍するスペシャリストを招いた「指導者講習会」の開催などがメインだが、今後、現場レベルでの技術的なアプローチも加わるかもしれない。
東京五輪がもし開催されれば……
そしてもうひとつ、野球日本代表の開幕戦が福島市で開催されることからも、東京五輪の開催は県内の野球を活性化させる「大きなチャンス」だと、木村は捉えている。
「本来ならばモチベーションを上げて『関わりたい!』と言いたいんですけど。日本だけではなく、福島県にとってもレガシーにしたい。野球とソフトボールを、子供たちにとって魅力あるスポーツだと発信していきたいんです。オリンピックが開催されれば、そこを大きなきっかけとして小学校、中学校、高校、大学の野球界がより連携を強められると思うんで、何とか実現してもらいたいですね」
福島県高野連の理事長として、新たな道を歩み始めた。
目の前には難題が立ちはだかる。だが、その先に夢が広がると信じ、迷わず攻める。
木村がふと、「これは個人的な話なんですが」と、おもむろに願望を呟いた。
「夏の決勝戦で、福島商業と磐城高校の対戦を『見たいな』って気持ちが正直あるんです」
もう53年も遠ざかっている、ライバル同士による福島の頂上決戦。できれば、理事長在任期間中に実現をと、想いを馳せる。
少し意地悪な質問をぶつけてみた。
――もちろん、母校を応援しますよね?
「え? いやぁ……それは」
虚を突かれたように木村が戸惑い、絞り出すように答える。
「福島県を牽引してきた伝統あるチームが決勝で当たるということが、何よりも嬉しいことです、はい」
そこには、かつて極端にクローズアップされた涙はない。ただ、同じような輝きを目に宿しながら、木村は笑っていた。