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<失われたセンバツ>磐城高のあの“号泣監督”が県高野連の理事長になった「全球児は甲子園を絶対に目指すべきです」
posted2021/05/14 17:10
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Sankei Shimbun
東北新幹線福島駅の発車メロディーには、夏の高校野球大会歌『栄冠は君に輝く』が採用されている。その曲を生んだ作曲家、古関裕而の出身地が福島市であることは、彼がモデルとなった昨年の朝ドラ『エール』によって広く知れ渡ることとなった。
郡山市在住で勤務地の福島市まで新幹線を利用する木村保は、毎日必ずこの名曲を耳にしていることになる。
「何回聴いたかわからないくらい、聴いています、『栄冠は君に輝く』。いやぁ、いつ聴いても感動しますよね」
心地よく高鳴る胸の鼓動を、言葉にする。
木村はこの春、福島県高校野球連盟の理事長に就任した。
「失われたセンバツ」の号泣監督
高校野球ファンであれば、「木村保」と聞いてピンと来るのではないだろうか。
昨年、監督として母校の磐城を46年ぶりのセンバツ代表校へと導いた、あの木村である。新型コロナウイルス感染拡大により大会は中止。追い打ちをかけるように、自身の異動という悲劇が「失われたセンバツ」の象徴として、数多くのメディアに取り上げられた。
その磐城が一層、美談として仕立て上げられる一滴となったのが、木村の涙だった。最後の練習となったノックで号泣する姿は、見る者を感動させると同時に「木村=涙もろい」というイメージを強く植え付けた。
「いやぁ、しょっちゅう泣いている人のように思われているといいますか……あの場面ばっかり流されるもんで。あの世代は(2019年)秋の台風19号被害に始まり、センバツの中止、私の異動と『乗り越えなきゃ』って日々が続きましたんで、心を動かされてしまう部分が多かったんですね。素直に泣いていたのは本当なんで、受け入れてはいますけど」
いまは野球部で指導していない
照れくさそうに話す木村は現在、県高野連事務局がある福島商で教鞭を執っている。同校は朝ドラの恩恵を受けるように、「古関裕而の出身校」として脚光を浴びた。磐城とは1960年代から70年代にかけて福島県高校野球の覇権を二分するライバル関係にあり、木村はいわば母校から“宿敵”へと異動したことになる。
「歴史と伝統。福島県の高校野球をずっと牽引してきた学校さんですからね。野球部OBの方々が練習や練習試合を観に来たり、熱心さとか磐城高校と同じ匂いを感じます」