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“黒田・新井と若手のつなぎ役” なぜ41歳石原慶幸はカープの19年間「誰かの支え」であり続けたのか
posted2020/10/13 12:40
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Kyodo News
投手を支える捕手は「女房役」と言われる。
広島から現役引退が発表された石原慶幸は、周囲に個性が強い捕手が多くいる中で、投手やチームメートを引き立てる捕手らしい捕手だった。先頭に立って引っ張るというよりも、黒子に徹して陰から支えるような存在で、3連覇に大きく貢献した。
広島一筋19年。石原慶幸はチームに尽くしてきた。
真剣な表情で語る目標はいつも「チームのこと」ばかり
25年ぶりのリーグ優勝を成し遂げた2016年では、正捕手として沢村賞を受賞したジョンソンや投手2冠の野村祐輔、大黒柱の黒田博樹らをリードした。その時、主役はドラマチックな筋書きとなった黒田博樹と新井貴浩。石原は胴上げの瞬間もマスクを被った。黒田と新井がいない間に続いた「広島の低迷期」を支えてきた1人でもある。それでも、主役にはなりきれなかった。
新井はチームを「家族」と表現したことがあったが、3連覇した2018年まで、その新井が長男とするならば、石原は歳の近い次男のように見えた。新井が引退した2019年からは、あえて一歩引き、新たなチームリーダーとなった会沢翼・小窪哲也をサポートする役割に回った。チームの盛り上げ役も引き受けた。グラウンドでは明るく声を出し、いじる側だけでなく、いじられる側にもなる。今思えば、昔の石原はそんな姿は見せなかった気がする。
石原の口からも個人成績の目標をあまり聞いたことがない。聞いたとしても冗談ばかりで、真剣な表情で語る目標はいつもチームのことばかりだった。
「チームとして勝ちたい。それがモチベーション」
グラウンドで明るく振る舞うのも、大きな声を出すのも、後輩からいじられても笑うのも、すべてチームに前を向かせるため。
「暗くなってちゃいけないから」
チームが強くなっていく過程で、太陽のように輝く“長男”を見てきたからこそ、少しでも近づこうとしていたのかもしれない。
悩み抜いた末に「広島残留」を決めたのは……
石原は東北福祉大からドラフト4巡目で、低迷期にいた広島に入団した。まだクライマックス・シリーズがない時代で、優勝争いに絡めないシーズンが続いた。