マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
横浜高の打撃を甲子園で見たかった。
絶妙だった「引っ張り」の意思統一。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKanagawa Shimbun/Kyodo News Images
posted2020/08/23 09:00
戸塚高戦で見事な能力の高さを見せつけた横浜高校・度会隆輝。
滅多に見ない場外への弾丸ライナー。
そんなことをつらつら考えていたら、さっきの「見えないライト前」の6番・冨田が気持ちよく振り抜いたスイングからライナー性でライト上空に飛んでいった打球が、ライトスタンドの向こうに、また見えなくなった。
もう、唸るしかなかった。
プロでも滅多に見ない完璧スイングと、弾丸ライナー場外ホーマー。
去年の秋は、横浜高の4番を打っていた冨田だ。当たり前といえば当たり前なのだろうが、いやあ、お見事。タイミングといい、頭の動かないスイングといい、インパクトだけに力感を覚えるメリハリといい、ケチのつけようがない。ユニフォーム姿のシルエットと、力を入れて振ろうとし過ぎない力加減の塩梅に頭をよぎったのは、鈴木尚典(元・横浜)。プロで首位打者を2回、本塁打146本を放った横浜高の偉大な先輩のスイングスタイルだった。
そう、タイミングがいいんだ。
打ち急がずに、じっくりとタイミングを合わせて振っているから、決して力任せにならず、結果として「フルスイング」になって、合理的な打球方向と打球スピードと飛距離を生んでいるんだ。
昨秋はもっと粗かった。
去年の秋に見た横浜高は、迫力はあったがもっと粗かった。
「自粛の春」を経て、練習量は十分じゃないはずなのに、どうしてこれほど「組織」として精度を上げることができたのか。
この春、横浜高に新しい監督がやって来た。
OBの村田浩明監督。それまでは神奈川県立白山高で教職に就き、野球部監督をつとめていた。
秋の、残念な事件を経て、落ち着いて野球ができるようになって、本来の腰の据わったバッティングを取り戻したのか。
「神奈川」の舞台だけで見るのではあまりにも惜しい卓越したバッティング技術が、「横浜高」に戻ってきたように見えていた。