令和の野球探訪BACK NUMBER
篠木健太郎は高校野球をやりきった。
木更津総合エースの涙と「幸せ」。
posted2020/08/20 15:00
text by
高木遊Yu Takagi
photograph by
Yu Takagi
大観衆の歓声やどよめきの代わりに、ミットに吸い込まれる音や雄叫びが球場に何度も鳴り響いた。
控え部員と3年生の保護者、スカウトを除き、“無観客”で行われた「2020夏季千葉県高等学校野球大会」。木更津総合3年・篠木健太郎はエースとして、主将として、文字通り先頭に立ち、チームを2年ぶりの頂点に導いた。
その右腕から放たれる最速150キロに迫る力強いストレートと、それとほぼ同じ腕の振りで投じられる縦横2種類のスライダーを武器に、各校の打者たち相手に空振りと凡打の山を築いた。5試合30イニングを投げて、わずか2失点、四死球も5個のみ。三振は34個を奪う圧巻の投球だった。
また、打撃でも11打数5安打5打点。準決勝の八千代松陰戦では9回2アウトから代打で登場して同点打。決勝戦では先制打を放つなど投打にわたって、その高い能力を遺憾なく発揮した。
溢れる涙、「戻りたい場所」がなくても。
決勝の専大松戸戦、最後の打者をサードゴロに打ち取って優勝を決めると、人差し指を高く突き上げた。すぐさま歓喜の輪の中心となり、その輪が解けて整列に向かうと、溢れる涙を止めることができなかった。
それは、その先に「もう一度戻りたい」と願った甲子園はなくても、この大会に懸ける思いが強かったからだ。