令和の野球探訪BACK NUMBER
ミラクル連発!八千代松陰の躍進。
「頑張れ」よりも大切にしたこと。
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byYu Takagi
posted2020/08/17 20:00
選手たちの成長を見つめる八千代松陰・兼屋辰吾監督。強豪揃いの千葉大会の中で、堂々のベスト4入りを果たした。
甲子園を経験した兼屋監督は……。
合言葉は「先輩たちを超えよう」。千葉の頂点と甲子園を目指して、「春から夏にグッと伸びるようなベース作り」(兼屋監督)を進めた。
だが3月からの練習試合の解禁を前に新型コロナウイルスの感染拡大によって全体活動は一切休止に。期間は約3カ月にもおよび、ようやく選手たちがグラウンドに戻ってきたのは6月下旬だった。
この休止期間、兼屋監督は選手たちと毎日野球ノートをかわした。2、3年生だけで55人もいるが「“トレーニングをしっかりやっておくように”と選手たちに言っていたので、僕もそれくらいは」と、画像で送られてくる一人ひとりの記載内容を確認し、それに対する言葉を書いて返した。そのやりとりの中で心の揺れ動きは手に取るように分かった。特に甲子園中止と正式発表が出たあとの選手たちの落胆は激しく伝わってきた。
ここで兼屋監督は、選手たちそれぞれとオンラインで面談をした。自身は沖縄尚学で甲子園を目指し、捕手としてその夢を叶えた。それだけに夢を目指すチャンスさえ奪われた3年生たちの気持ちは想像をするに余りあった。言葉をかけるよりも「どんな気持ちなのかを理解すること」を大事にし、「こちらから頑張らせようとはしませんでした」と振り返る。
「こんなに成長するんだ、すごいな」
一方で千葉は早々と代替大会の開催が決まった。
選手たちは各自でできる限りの練習を積んで、グラウンドに帰ってきた。「(今まで野球ができていたことなど)何ひとつ当たり前ではないんだと感じました。1球1球を大切にしないといけません」と永戸が語るように、選手たちはひたむきに白球を追った。3年生たちで話し合いを重ね「3年生のみで戦う」ことを決めた。
そして迎えた今夏。地区トーナメント決勝の中央学院戦では9回に2点差を追いついた。無死一、二塁から始まるタイブレーク方式の延長戦に持ち込むと10回でも再び2点差を同点に、さらに11回には3点差をひっくり返し、サヨナラ勝ち。次の決勝トーナメント1回戦でも千葉黎明に3点のリードを許した中で最終回に進んだが、7番を打つ西澤慶悟の逆転サヨナラ満塁本塁打で劇的に勝利した。
ベンチで采配を振るう兼屋監督は「高校生はこんなに成長するんだ、すごいなと遠目に見ている私がいました」と選手たちの想像以上の頼もしさに目を見張った。