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早見和真が語る甲子園の魔法の行方。
17歳の違和感と「結局、大好き」。

posted2020/08/14 11:10

 
早見和真が語る甲子園の魔法の行方。17歳の違和感と「結局、大好き」。<Number Web> photograph by Sports Graphic Number

高校野球の世界に同調圧力と特別扱いが渦巻いていることを認めたうえで、それでも話は「愛」に向かっていった。

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中村計

中村計Kei Nakamura

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甲子園は巨大なファンと、同じく巨大なアンチを抱える一大ジャンルだ。
そして2020年は、春夏の甲子園中止をきっかけに「甲子園とは何なのか」という問いが再燃した年でもあった。
デビュー作『ひゃくはち』で高校野球の表裏を描ききった早見和真さんと、
松井秀喜の5敬遠や金足農業など多くの高校野球取材を重ねてきた中村計さん。
ともに高校時代に野球部に所属した経験を持つ2人の対話は、スリリングなものだった。

――選抜大会、夏の甲子園と中止が決まったときは、何を思いましたか。

早見「自分が高校3年生だったら何を感じていたかな、ということばかり考えていました。自分だったら、甲子園だけはやってくれよ、って思うだろうなと。インターハイとか文化部の活動なんて知ったこっちゃないって。僕もベンチ入りできる可能性がまだありましたから。もし、まったくベンチに入れない立場だったら逆に中止になれって思っていたかもしれないですけど。

 でも、メディアにカメラを向けられたら『他の部活動も中止なので仕方ないです』と模範通りの言葉を言っていたでしょうね」

――今、高校生の本音が聞こえたような気がしました。

早見「高校野球って同調圧力の塊ですよ。自分の高校時代を振り返ると、そう思います。高校生も大人が何を言って欲しいのか、敏感に感じ取ってますから」

――甲子園をやるかやらないかで揺れている時期、高校野球の現場の人たちが間違ってでも「特別」という言葉を使っちゃいけないみたいな空気感がすごかったんです。そんなことを言おうものなら、世間から袋叩きに合うぞ、みたいな。

早見「ネットに出ていた東邦高校のキャプテンの記事がそれを象徴していましたね。高校野球は世間から応援してもらっていると思ったら、SNSを見て、実はそうでもなかったんだと。その記事についていたネット上のコメントを見ると『真実に気づけてよかったね』みたいな謎の上から目線のコメントであふれていた。あれは今の時代の気持ち悪さの象徴のように思えましたね」

――僕も千葉県の弱小公立高校で野球をしておりまして。僕が初めて高校野球を客観視できたのは、社会人1年目、某スポーツ紙の記者だったときでした。高校野球を担当していた他紙の記者が「高校野球の世界は狂ってる」と吐き捨てるように言っていて。あのとき、高校野球を嫌悪している人もいるんだなと初めて知ったんです。

 なので甲子園は国民的イベントだと思いつつも、当然、みんながみんな応援しているものだとは思っていなかった。ただ、今回、衝撃的だったのは、嫌いだから開催しようがしまいがどっちでもいいと無関心でいるというのならまだしも、高校野球に積極的に罵詈雑言をぶつけたがる人たちがこんなにもたくさんいるのかということでした。

早見「僕は高校時代、一般の生徒は野球部をけむたがっているだろうなというのは感じ取っていました。桐蔭学園のグラウンドって、すごく立派なんです。

 ある日、ランニングから戻ってくると、外野の芝生のところで一般の生徒が野球部のために人文字をつくらされていました。それを上空からヘリで撮影していたのですが、17歳ながらも、これはおかしいぞ、と思いました。駆り出された生徒たちは納得いかないだろうなと。野球部はものすごく特別扱いされていましたから」

【次ページ】 「特別扱い」のスタートは学校内の扱い。

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