野ボール横丁BACK NUMBER
甲子園がないことは本当に不幸か。
早見和真「高校生はバカじゃない」
posted2020/08/14 11:05
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Sports Graphic Number
そして2020年は、春夏の甲子園中止をきっかけに「甲子園とは何なのか」という問いが再燃した年でもあった。
デビュー作『ひゃくはち』で高校野球の表裏を描ききった早見和真さんと、
松井秀喜の5敬遠や金足農業など多くの高校野球取材を重ねてきた中村計さん。
ともに高校時代に野球部に所属した経験を持つ2人の対話は、スリリングなものだった。
――『ひゃくはち』を書き終えてからは、素直に野球を観られるようになりましたか。
早見「はい。なりました」
――でも、また高校野球ものを書こうとは思わなかったのですね。
早見「もう書き尽くしたと思ってたんですよ。でも、実は今あるテーマで高校野球の取材をしています。はじめて小説ではなく、『あの夏の正解』というタイトルでノンフィクションを愛媛新聞に連載していて、その後、なるべく早く本にする予定です。
1300枚で恨みは晴れたと思っていたんですけど、今、またこうやって高校野球に惹かれているということは、半分冗談ですけど、まだ恨みは晴れてなかったのかな、と」
――まだ、恨んでいるのですか。
早見「今回は期待の方が大きいですかね」
――僕は「甲子園の魅力とは」みたいな質問をされると、いつも答えに窮してしまうのですが、早見さんはいかがですか。
早見「答えになっていないかもしれませんが、この国の人たちはみんなで『甲子園は素晴らしいもの』という集団洗脳にかかっている気がします」
――でも『ひゃくはち』も、高校野球のある種のクレイジーさは認めつつ、それでいて、ああ、やっぱり高校野球はいいもんなんだな、甲子園は素晴らしいという読後感でしたが。
早見「僕の立ち位置もそうでした。ただ、今年、新型コロナウイルスの影響で選抜大会がなくなり、夏の甲子園もなくなりました。そのとき、指導者や識者を含めた大人たちが何を言うのかなと注目していたんです。そうしたら、甲子園はすべてじゃない、とか言い出した。それって無茶苦茶だなと思ったんです。
これまで大人たちは、正解を知っている風な顔をして、甲子園に行きたかったら、あれをやれ、これをやれと言ってきた。それも一種の洗脳だったと思うんです。でも、その『甲子園』がなくなった途端、指導者は言葉を失った。結局、本当のところではそれほど深く考えず、ただ『甲子園にいったら人生が変わるぞ』と言い続けてきただけだったんじゃないか。
一方、選手たちの中には、甲子園のプレッシャーから解放されたからか『こんなに野球が楽しいと思ったのは小学生のとき以来』という選手もいたりして。これって、どういうことなんだろう、って」