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望月将悟と創始者が語るTJAR哲学。
次回は新ルールで「山小屋補給ナシ」。
text by
千葉弓子Yumiko Chiba
photograph bySho Fujimaki
posted2020/08/14 08:00
2018年のTJARで「無補給」で完走した望月将悟。他の参加者の倍近い重さのザックを担いだ。
TJARはひとまず卒業だが……。
次回の「山小屋での飲食物の購入禁止(水のみ可)」というルール変更を知り、望月はこう思った。それなら新たに挑戦してみたいという人たちも出てくるのじゃないか、と。
「TJARがいまの山岳マラソンやトレイルランニングのスピード化とは別の価値をもつ大会に移行していくのは、面白いことですね。無補給の世界を知ってみたいという人も、きっと出てくると思います」
岩瀬も指摘していたことだが、ここ10年の間にテレビ放映やネットの普及によって、TJARに出場し完走するための情報が世の中に溢れるようになった。装備の選び方、軽量化のテクニック、補給場所などもシェアされるようになった。そうした情報が「山小屋補給ナシ」によってリセットされるのではないか。
「リセット、されるかもしれませんね。毎回、選手によって報告書が作成されるんですけれど、それを見れば、どれくらいの力量の選手がどこをどのタイムで通過したかがわかる。装備の一覧や食料計画まで知ることができる。そうした情報がいったんリセットされるかもしれません」
では望月がもう一度、無補給に挑戦する可能性はあるのだろうか。
「それはないな、僕はもうやらないと思う(笑)。あまりにきつかったから。でも、他の人にどうだったって、聞いてみたいんですよ。苦労話を笑いながら共有したい。もしもう1回やるとしたら? そうだな、食料計画は見直すかな。6日間どん兵衛が主食だったから飽きちゃって。栄養だって偏っているし、下界なら、いくら好きでもそんな食生活あり得ないもんね(笑)」
望月の中でTJARの魔力は消えた?
人を虜にしてしまうTJARも、望月の中ではその効力を失いつつあるのだろうか。
「いまは人と競い合うことに目的を見いだせない自分がいます。でももし誰かがTJARですごい記録で完走したら、変わるかもしれないな。それに新しいルールになって、思いもよらない記録でゴールする選手が出てきたりしたら、自分も燃えると思う。そうなったらいいな、刺激くれよって思っています(笑)」
そして、もし20年後にもTJARが開催されていたとしたら、挑戦するかもしれないとも。
「60歳か……。いいですね! 年齢を重ねるとスピードは出なくなるけれど、年を重ねた中での勝負があると思う。現在は58歳が最高齢の完走だけど、それ以上の年齢で完走してみたい。いくつになっても、どっぷり山に浸かって生きていたいんです」
最近になって望月は、岩瀬との不思議な縁を知った。
「自分が山を始めた20年ほど前、初めて職場の上司に連れて行ってもらった南アルプスでこんな話を聞きました。『北岳から光岳までを1日で縦走したすごい人がいるんだよ』って。僕らはそのとき同じ行程に2泊3日かかりました。だからその話をずっと覚えていて、いつか自分もそんなことができる人になりたいと奮起したんです。その人こそ、岩瀬さんでした。知らず知らずに、背中を追いかけていたわけです」
岩瀬が南アルプスを1日で縦走したのは42歳、TJARをつくり始めたのは40代半ばのこと。20代の望月が岩瀬の後ろ姿を追っていたように、望月がこれまで踏みしめ、これから切り開いていく道にも誰かが新しい足跡を残していくのだろう。