Number ExBACK NUMBER
望月将悟と創始者が語るTJAR哲学。
次回は新ルールで「山小屋補給ナシ」。
text by
千葉弓子Yumiko Chiba
photograph bySho Fujimaki
posted2020/08/14 08:00
2018年のTJARで「無補給」で完走した望月将悟。他の参加者の倍近い重さのザックを担いだ。
かつては「無謀」、いまではNHKも来る。
「まず安全性が格段にアップしました。チェックポイントにスタッフがいるし、スイーパー(最後尾で安全確認するスタッフ)もいるし、GPSで選手の居場所がリアルタイムでわかるようにもなりました。ルート上には応援者が待っていて、NHKのテレビクルーも伴走しています。かつては孤独な挑戦だったけれど、いまはたくさんの人たちが見守る中での挑戦になりました。雰囲気が変わりましたね」
安全性が高まったことは、とても喜ばしいことだと岩瀬はいう。50年近い登山歴の中で、多くの仲間を山で失ったからだ。
「TJARに参加していると、昔は“無謀登山者”なんて言われたものです。でも2012年からNHKの番組で取り上げられるようになり、社会的な認知度が高まって、支援してくれる人も増えました。一方で、時代とともにレースに関する情報収集が容易になり、かつてより大会の難易度が下がってきたなと感じていました」
「選手たちが山小屋に頼りすぎている」
そしてこの7月、岩瀬は実行委員会にこんな提案を行った。
「山岳パートで水以外の補給を行わず、飲食物をすべて自分で背負うというのはどうだろう?」
コロナ禍により、いま山小屋はかつて経験したことがない状況下に置かれている。山中という限られた環境のなか、アルプスでは感染防止策を施して営業する山小屋もあるが、年内休業を決めているところも少なくない。そして、コロナの影響は来年もどうなるかわからない。
それなら、TJARも山小屋に頼らず、補給も自己完結するルールに変更したらいいのではないかと岩瀬は考えたのだ。頭の中には、2年前の望月のイメージがあった。
「近年、選手たちは少し山小屋に頼り過ぎているなと感じていたんです。だから、前回の望月君の挑戦には深く共感しました。スピードでない価値を見つけてチャレンジしてくれたことが嬉しかった。私はTJARの選手たちにもっと高みを目指して欲しいんですよ。ヒマラヤや冬山など個々のチャレンジを見つけて、それぞれステップアップしてもらいたい。TJARを”踏み台”にしてほしいんです、ゴールではなくてね」