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望月将悟と創始者が語るTJAR哲学。
次回は新ルールで「山小屋補給ナシ」。
posted2020/08/14 08:00
text by
千葉弓子Yumiko Chiba
photograph by
Sho Fujimaki
「あれから2年経ちますけれど、まだ身体が回復していないんですよ。どうしてなのか、僕にもわからないんだけれど」
あれから、とは2018年夏に開催された「トランスジャパンアルプスレース」(TJAR)のこと。僕、とは望月将悟のことだ。
TJARは、日本海の富山湾を出発して北、中央、そして南という日本アルプスを縦走、その前後でロードを約200kmつないで太平洋の駿河湾を目指す壮大なレースだ。総距離415km、累積標高差2万7000mを8日間以内に踏破しなければならない。
望月は2年に一度開催されるこのレースで2010年大会から4連覇を果たし、2016年には「4日間23時間52分」という大会新記録を打ち立てた。そして2年前の18年大会では、大会規定よりさらに厳しいルールを自らに課し、水以外の補給を一切行わない「無補給」で、自身5度目の舞台に臨んだ。
TJARはサポートなしで走破することを目的としているため、選手たちは食料やツェルト、火器などの衣食住すべてを背負って進むが、途中、山小屋や麓の店、自動販売機での飲食物の購入は認められている。望月は、自らそれを禁止したのだ。
その「無補給」という選択は、ライバルたちも「超人」と評す望月にとっても想像を超える過酷な経験だった。それまでのレースの倍以上となる約13kgのザックの重さは強靱な肉体を打ちのめし、気力を振り絞って辿り着いたゴールで望月はかつてないほど衰弱。2年たった現在もその疲れがとれないというから、にわかに信じがたい。
水以外は購入不可の新ルール。
本来なら今年の夏、第10回大会が開催される予定だったが、コロナ禍により延期が決定。8月2日、正式に2021年8月の開催が発表されると、驚くことにルールが変更されていた。
大会概要には、「山小屋での食料・飲み物の購入禁止(水のみ補給・購入可、馬場島と上高地の施設は利用可)」の一文が加えられていたのだ。
TJARが、タイムを競うレースというより、いかに山岳地帯で自分自身と向き合うかという「サバイバル」の要素を強めることになる。