炎の一筆入魂BACK NUMBER

プロ11年目、もがき続ける堂林翔太。
新井貴浩「昔の自分と似ている」 

text by

前原淳

前原淳Jun Maehara

PROFILE

photograph byKyodo News

posted2020/05/27 07:00

プロ11年目、もがき続ける堂林翔太。新井貴浩「昔の自分と似ている」<Number Web> photograph by Kyodo News

堂林は2009年に甲子園で優勝し、翌年にドラフト2位で広島入団。2012年には自己最高14本塁打を放った。

新井貴浩の姿を見て学んできた。

 不器用な男の転機は、同じ不器用な男との出会いだった。2015年に新井貴浩氏が広島に復帰。翌年オフに弟子入りを願い出て、'17年1月には護摩行にも挑んだ。打撃技術や精神力、練習に取り組む姿勢など、多くを学んできた。猛練習でリーグを代表する打者となった新井氏も、堂林のことを「昔の自分と似ている」と感じていたという。

 '18年に新井氏が引退した後も変わらない。ときに連絡を取り、アドバイスを求める。今年の春季キャンプで迷いが生じていたときに光を差してくれたのも、新井氏だった。

 2月14日、ロッテとの練習試合。途中出場から1打数無安打に終わった試合後、同氏から打席での姿勢を指摘された。

「構えているバット(ヘッド)をそのまま投手に突き刺すくらいの勢いでいい」

 技術ではなく、感覚のアドバイスだった。言葉だけ聞いても理解が難しいメッセージも、師弟関係にある2人だからこそ理解し合える。

「スッと落ちてきた。自分の中で(悩んでいたものが)全部がそろった感覚がありました」

 自分の進むべき道を照らしてくれた言葉に、表情も晴れた。

泥臭くもがき続ける「プリンス」。

 変わろうとするのではなく、変わらないことを選んだ。周囲にはわずかな変化も、堂林には大きな変化だ。

 ティー打撃だけでなく、フリー打撃でもセンター中心に打ち返すことを徹底する。引っ張った柵越えの後は自制の念を強め、次の1球はセンターから右方向を狙う。自粛期間が続き、練習時間が限られ、単調な練習メニューに終始しても根気強く続けた。

 今年で29歳。年齢を重ねるごとにチャンスは少なくなっていく。プロの世界で、高校時代に呼ばれた「プリンス」という愛称とは程遠く、泥臭くもがき続けている。

「才能の差は小さいが、努力の差は大きい。継続の差はもっと大きい」という言葉が、堂林の姿勢を表している。不器用な人間は、器用な人間よりも時間はかかるかもしれないが、不器用だからこそ、一度身に付けたものは忘れない。

 人は変わらないことを選んでも、進化できるものかもしれない。

BACK 1 2
堂林翔太
新井貴浩
広島東洋カープ

プロ野球の前後の記事

ページトップ