炎の一筆入魂BACK NUMBER
プロ11年目、もがき続ける堂林翔太。
新井貴浩「昔の自分と似ている」
posted2020/05/27 07:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Kyodo News
球団は監督交代によって、チームの変革を期待する。今年、広島は佐々岡真司新監督となり、変わろうとしている。
変化なくして、進化なし。今年11年目を迎える堂林翔太にも、わずかな変化が見える。それは黙々と両手で振り続けるティー打撃にある。
最初は右手もしくは左手だけで振る選手も多いが、堂林はティー打撃の1スイング目から両手でバットを握る。バットヘッドを立たせる意識付けのため指2本分ほどグリップを離して握り、内角高めや外角高めなどコースを設定しつつ、両手をバットから離すことはない。
当たり前のようで、当たり前でもない。選手にとっては意識付けさせるメニューであり、自分の体を知るメニュー。中には逆手で握る選手もいる。堂林のように、最初から最後まで両手でティー打撃する選手のほうが実は少ない。
不器用なりに、いろいろやってきた。
堂林も今年の春季キャンプまでは、ティー打撃のときにほかの選手と同じく右手、左手、逆手……と握り方を変えながらバットを振っていた。
「新しいことをやりたいんですけど、自分の中にすっと入ってくる感じがしない。僕の場合、片手(でのスイング)を意識すると変な癖がつきそうな感覚があるんです。あくまで応用だと感じているので、まずはキャンプからやってきたことを続けたい。それこそ不器用の一番の強みかなと。僕は不器用なりに、いろいろやってきたので」
自虐的に笑うが、その不器用さが長い低迷期につながったような気がする。
一軍にデビューした2012年以降、毎年のように違うトレーナーに依頼し、新たなトレーニング法などを学んできた。真面目な性格ゆえ、指導者だけでなく、助言をくれる人の意見にはすべて耳を傾けてきた。ノーステップ打法や神主打法、打ち方もいろいろ試した。藁にもすがる思いだったのだろう。
プロ3年目の'12年に野村謙二郎監督から期待され、全試合出場を果たした。'14年まで300超の打席数を記録したが、緒方孝市監督体制下では打席数が毎年2桁にとどまり、昨年は出場28試合、38打席はいずれも'12年以降ワーストに終わった。
急騰した人気によって歓声も増えたが、比例して罵声も増した。期待値の高いスター性のある選手の宿命か。並の選手が出場数を減らしても、そこまで外野が声を上げることはない。
焦りは当然あった。結果を求め、変化を求めた。新しいものを取り入れれば、何かが変わると信じているようでもあった。ただ、意思や根拠のない変化は進化のきっかけにもならない。