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私のJ最強クラブ。16年浦和を再考。
ミシャの変貌と興梠史上最高の1点。
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byJ.LEAGUE
posted2020/05/16 11:00
興梠が「キャリア最高のゴール」と振り返った2016年CS決勝第2戦での右足ボレー。惜しくも優勝を逃したが、浦和の強さが際立った1年だった。
ミシャが植えつけた前線の守備。
当時、就任5年目を迎えていた指揮官は開幕前のキャンプで素早い攻守の切り替えを植え付け、ミーティングでも再三、前線からプレスのスイッチを入れることを徹底。FW陣には口酸っぱく言い続けた。
「後ろの選手と同じくらいの気持ちで守備をしろ」
全体をコンパクトに保つため、最終ラインは高い位置に設定するように意思統一。攻撃一辺倒で鳴らしてきた頑固者の変わりぶりには誰もが驚いた。広島時代から恩師の下でプレーする森脇良太(現・京都サンガ)が真顔で「これまでにないことですよ」と目を丸くしたほど。体力の消耗が激しい夏場は、さすがにプレスに行く回数を減らしたものの、それは想定内のこと。臨機応変に守り方を変えることできたのも、強さの秘訣だろう。ルヴァンカップ決勝ではG大阪に守り勝ち。1-1からのPK戦を制し、タイトルを手繰り寄せている。某クラブの分析担当は、困り顔で話していた。
「今季の浦和は相手と状況に応じて、いろいろやり方を変えている。対策が難しい。他の上位チームよりもワンランク上だと思う」
総得点リーグ2位、輝いた“KLM”。
特筆すべきは守備の整備に力を注いでも、持ち前の攻撃力を低下させなかったこと。むしろ、コンビネーションプレーには磨きをかけた。興梠、李忠成(現・京都サンガ)、武藤雄樹の前線トリオはそれぞれの頭文字を取り、“KLM”と呼ばれて、メディアの見出しをたびたび飾る。セカンドステージ14節は圧巻。堅固な守備を誇る長谷川健太監督が率いるガンバ大阪から4点を奪取。総得点はリーグ2位の61をマークした。
シーズン終盤に失速して優勝争いから脱落する悪癖もどこへやら。セカンドステージ11節から6連勝を飾り、7戦負けなしでフィニッシュ。勢いに乗ったままCS決勝に臨み、第1戦のアウェーで勝利をつかむところまでは完璧なシナリオと言えた。
それだけに、クライマックスのショックは大きかった。水を打ったように静まり返る埼玉スタジアムで、宿敵・鹿島の凱歌だけが響く光景は異様だった。ファン感情からすると、負け方も悪ければ、負けた相手も悪かった。ただ、たった1つの失敗で積み上げてきた功績がゼロになるわけではない。