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今中慎二のスローカーブを忘れない。
打者がたじろぐ軌道と真っ向勝負。 

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栗田シメイ

栗田シメイShimei Kurita

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photograph byKyodo News

posted2020/04/30 19:00

今中慎二のスローカーブを忘れない。打者がたじろぐ軌道と真っ向勝負。<Number Web> photograph by Kyodo News

ジャイアンツキラーとしても名を馳せた左腕・今中慎二。60キロ近い球落差で多くの打者の頭を悩ませた。

最後に投じた4球は全てストレート。

 '02年3月の引退セレモニーが行われたオリックスとのオープン戦。今中は対峙した谷佳知に対して、4球を投じた。球種は全てストレートで、球速は最速で110キロだった。引退後、記者からカーブを投げなかった理由を問われた今中は、その答えを自著の中でこう記している。

「カーブを投げるつもりはまったくなかった。これは真剣勝負ではない。わざわざ用意してもらった引退セレモニーの舞台で変化球を投げるのは、失礼だと思ったのだ」

 時代が移り、プロ野球界ではスライダーや高速ムービングボールの変化球が主流となりスローカーブを操る投手は激減した。メジャーではカーショーやクルーバーらの活躍もあり近年カーブが再び脚光を浴びているが、ドロップのように割れて落ちる類のもので、今中が投じていたカーブとは異なるものだ。ダルビッシュ有や三浦大輔のスローカーブも、今中のカーブのような大きく曲がる軌道を描く球種ではない。

 強烈なスピンがかかり空中に浮かび上がったと思えば、打者の手前でボールが意思を持ったかのような放物線でうねり沈んでいく――。あの美しい軌道のスローカーブが野球界から消えて、今年で20年が経とうとしている。

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