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36歳・長谷部誠の止まらない成長。
豊富な経験、知性、誰より熱い心。
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2020/03/04 07:00
10数年前は30代に入るとサッカー選手はピークアウトすると見られがちだった。そんな固定概念を覆す選手が増えた中で、長谷部誠もその1人である。
「いつまでも飢えた状態でいたい」
「自分自身36歳ですが、いつまでも飢えた状態でいたいと思う。だけど、それがチームにとって良いことかと言われると……。競争はあるべきだし、そういう正しい競争のなかで自分が試合に出られたらいいなと。そういったハングリーさがなくなったら、サッカーをやめなきゃいけないとは思っています。
若いときよりも落ち着きは間違いなくありますが、そのなかでもバランスを保って、ハングリーさ、向上心、競争に打ち勝つ強い気持ち、熱を持たなきゃいけないと感じています。自分のなかで冷静になる部分と熱の部分を、いいバランスで持ちたいなと」
そのアウクスブルク戦では、印象深いシーンが2つあった。
1つ目は、コスティッチがチーム4点目をあげる直前のシーン。中盤から素早く攻撃を仕掛けようとするチームのなかで、長谷部だけが後ろを振り返り、CBヒンターエッガーとコンタクトを取り、相手FWのマーク確認をしていた。攻撃ばかり、あるいは守備ばかりになりがちなチームに積極的に声をかけ、バランスを取り続けていく姿だ。
2つ目は、コスティッチがあげたチーム5点目のあとだ。多くの選手は一緒に喜ぼうとコスティッチへ駆け寄ったが、長谷部は真っすぐパシエンシアへ歩み寄っていた。
この得点は、フリーのパシエンシアが切り返しからシュートしようとしたところに走り込んできたコスティッチが、奪うような形でシュートしたもの。自身のゴールを奪われたと感情的になってしまったパシエンシアをなだめ、落ち着かせようとしていたのだ。
気持ちはわかる。でも僕たちはチーム。
パシエンシアも長谷部同様、前半戦はFWの柱だったが後半戦は途中出場が続いている。気持ちはわかる。けれども、僕たちはチームなのだ。そのことを忘れてはいけないのだと。冷静さを取り戻したパシエンシアは、試合後コスティッチとチームに謝罪。わだかまりは生まれていない。
アウクスブルク戦で改めて存在価値を示した長谷部は、ELザルツブルクとのファーストレグでアンカーの位置でフル出場し、90分間通じて見事なパフォーマンスでチームを勝利に導いた。
次の展開を読みながら、攻守に最適なポジショニングを取り続ける。攻撃陣が慌て出すと自分のところでリズムを落ち着かせ、前線に動きがなくなってきたら、ロビングボールやサイドチェンジで変化をつける。
そしてパスコースを予測して何度もインターセプトでボールをカットし、抜け出そうとする相手との1対1を巧みな追い込みで阻止していく。決定機も阻止した。