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「君に、19番をつけてほしい」
ノムさんが甲斐拓也に託したもの。 

text by

田尻耕太郎

田尻耕太郎Kotaro Tajiri

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photograph byKyodo News

posted2020/02/23 11:50

「君に、19番をつけてほしい」ノムさんが甲斐拓也に託したもの。<Number Web> photograph by Kyodo News

宮崎キャンプで野村克也さんが現役時代に付けた背番号「19」を背負う甲斐拓也。

最後に会ったのは2019年の春。

「やりがいも感じますし、プレッシャーもある。もっと自分にプレッシャーをかけてやらないといけないと思っています。このままでいいとは思っていないです」

 特別な思いで2020年シーズンのスタートを切った。その矢先の2月11日、突然飛び込んできた訃報。甲斐はウォーミングアップの途中にマネジャーから伝え聞き、言葉を失った。

「本当にびっくりしました。最後に会ったのは去年の春。ちょうどキャンプの時期でした。その時も、いろいろとキャッチャーのお話をさせていただいた。そして『母ちゃんを大事にしなさいよ』と言われました。それは今でも覚えています」

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 母を大事に――。

「初めてお会いした時から、『俺とよく似ている』と、ずっと言われていました」

 ともに母子家庭で、女手ひとつで育てられた。

 野村氏は京都・峰山高からテスト生として南海に入団。ブルペン捕手のような役割まで味わいながら、そこから大選手へと飛躍を遂げていった。

 甲斐は育成選手で、しかもその年の最下位指名の育成6位でのプロ入り。同期のドラフト1位も同じ高卒捕手で、何かにつけて比較をされながらも「人はヒト」と根性を見せて這い上がってきた。

「いろんな話をしてもらいましたが、僕がキャッチャーにとって一番大切なものは何ですか、と尋ねた時の言葉は今も大切にしています。捕手はピッチャーを支える存在。功は人に譲る。そういうポジションだから、と」

甲斐の1日は誰よりも長い。

 昨年の日本シリーズ。

 ホークスが巨人を相手に4勝0敗と完勝した要因の1つに挙げられたのが、甲斐の巧みなリードだった。第1戦で「キーマン」と考えていた坂本勇人や中軸の丸佳浩に対して執拗な内角攻めを要求して、それ以降のバッティングを狂わせた。

 そのシリーズ初戦が終わった夜、日付が変わろうとするまでバッテリーコーチとともにミーティングを行っていた。その日の配球を見直して、次の戦いへの準備をする。甲斐の1日は誰よりも長い。

【次ページ】 「野村さんの本に自分の名前が出てくる」

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