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「君に、19番をつけてほしい」
ノムさんが甲斐拓也に託したもの。
posted2020/02/23 11:50
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph by
Kyodo News
きっと青い空の向こうから微笑んで見てくれていたはずだ。
2月13日、ホークスの今年初の紅白戦。甲斐拓也のバットが火を噴いた。2回裏1アウト一塁、売り出し中の育成右腕・尾形崇斗の144キロ直球を強引に振り抜いた。見逃せば高めのボールだった。「しっかり叩けました」。力強い打球がぐんぐん伸びて外野フェンスを越えていく。バックスクリーンの左へズドンと飛び込んだ。
ホークスの背番号19が悠然とダイヤモンドを1周する。心の奥にジンとくるものがあった。
甲斐は今季から背番号を変えた。プロ入りした際は「130」。文字どおり死に物狂いになって、絶え間ない努力を積み重ねた結果、3年目のシーズンオフに支配下登録を勝ちとり「62」を手に入れた。だから、とても愛着のある背番号だった。だけど、ある日の出会いをきっかけに別の想いを抱くようになった。
野村克也に言われた「19番」。
2017年7月、甲斐は仙台遠征で初めて野村克也氏との対面を果たした。
「ぼく、野村さんの本をたくさん読んでいます」
この一言でノムさんの心をがっちりと掴んだ。“野村の教え”を真剣なまなざしで一言一句逃すまいと聞き入った。そんな姿も好感を持たれた。その後もインタビューや取材などで何度か会う機会に恵まれた。
「君に、19番をつけてほしい」
何度目かの対面で、ホークスでは野村氏以来捕手がつけることのなかった背番号19の継承を、直接口にしてもらったのだ。
プロ野球は“3年やって一人前”と言われる世界だ。昨季が正捕手となって3年目。チームは3年連続日本一を果たし、甲斐自身は3年連続となるゴールデングラブ賞に輝いた。必死な思いで獲得した「62番」にも愛着はあったが、「背番号19・甲斐」の誕生にもう異論を挟む者はなかった。