“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
選手権V静岡学園の「勝つ意識」。
上手いだけでは青森山田を崩せない。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/01/14 20:30
1995年以来、2度目の選手権優勝を飾った静岡学園。10番松村を中心に、優れたテクニックで王者・青森山田を撃破した。
やりたくないことを我慢できるか。
一方の青森山田は、黒田剛監督が「ゴールを隠す守備」と表現する1対1の個の強さと守備のスライドの速さ、そして素早い攻守の切り替えからの個の技術を生かしたカウンターが持ち味にしてきた。
だが、これを具現化するためにベースとなるのが、技術ある選手たちが最後までハードワークし続けられるフィジカルと精神力を持っていることだ。
「この間も選手に言ったのですが90%くらいで『ここまで戻らなくてもいいや』とか、『自分だけならいいだろう』という気持ちの選手が11人中11人いたら、トータル110%チーム力が失われる訳で、実質1人退場した時よりもダメージが大きい。そういう時に失点する。常に『その気持ちが一番危険なんだ』ということを伝えてきましたし、決してウチは強くはない。
だからこそ、本当にやりたいことをやるためには、やりたくないことをどれだけ我慢してやり抜けるか。ボールを奪う攻防で一歩も引かないなど、一番疲れることを前面に押し出しながら戦うことで、必ず光が見えてくる。プレミアリーグでJクラブユースに勝って優勝できたのは、一番やりたくないことをやり続けたチームが我々という証なんです」(黒田監督)
お互いがこだわりとプライドを持って育んできたスタイルが、5万6025人の大会史上最多の観客が見つめる中で、真っ向から激しくぶつかり合った。
普通のパスワークでは崩せない。
準決勝後に川口監督は、決勝のポイントをこう口にしていた。
「青森山田は普通のパスワークでは崩せない。ドリブルでこじ開けられればチャンスはあると思うが、それも簡単ではないと思います。やはりただドリブルで突っ込んでいくだけでは簡単に引っ掛けられるので、もう1人、2人が絡みつつ、相手のディフェンスを倒しに行くという発想がないといけない。1人だけで突破しようとしてもできないので、そこで1人、2人、3人と『倒しに行く』発想で、意思の強い選手が連動することで倒せると思っています」
前半の静岡学園は青森山田の激しいプレスと前への圧力を前に、ドリブルに対しての連動性を持つことができなかった。
トップ下の武田英寿が何度もスプリントでアップダウンを繰り返し、守備時は強烈なプレスバックを仕掛け、攻撃時はボールを集約してサイドや裏に供給。そこから足を止めることなくゴール前に飛び込んでいく。1年生の松木玖生もアタッキングエリアとミドルゾーンを広範囲でカバーし、守備は2年生CB藤原優大を中心に声を掛け合って、ゴールを隠す守備を体現する。前半は完全に青森山田ペースだった。
静岡学園のドリブルを分断しながら、11分には得意のセットプレーで先制点を掴んだ。左FKからMF古宿理久が正確なボールをニアサイドに送ると、藤原が高い打点のヘッドを叩き込んだ。
さらに33分にはカウンターからFW田中翔太がドリブルで運び、ペナルティーエリア内左のスペースに飛び込んだ武田へスルーパス。飛び出してきた静岡学園GK野知滉平が武田を倒し、PKを獲得。これを武田が冷静に決めて、青森山田はあっという間にリードを2点に広げた。